漆の色:朱



漆器の色といえば黒ですが、朱も古くから使われてきました。

朱色の起源は「シナバー」という色で、印刷のCMYKだとM85+Y85です。この色は現在の私たち日本人も朱色だと知覚します。一般的に「赤」と呼ばれている色が、漆器では「朱」になります。一般的に「朱」とされている色は、私のところでは「洗朱」と呼んでいます。「古代朱」と呼ばれているものもあります。「洗朱」は、昔は仏教・神道関係の色でした。現在も寺院の建物や神社の鳥居などに残っている、あの色です(関東と関西では、鳥居が赤か朱かの比率が逆転します)。反対に、一般的に「赤」と呼ばれている「朱」は、庶民の色でした。朱は、艶のあるものが好まれています。濃い朱色の場合、艶消しを好む人もいます。

上の画像は、左手前から時計まわりに、洗朱、神代朱、朱、です。

さて、そんな馴染み深い朱色ですが、問題があります。


その前に、洗朱。光の加減で色味が大きく異なります。最も撮影しにくい色です。


まずは、過去の話。「水銀朱」という名前の朱色があります。名前の通り水銀入りです。日本はかつて水銀を輸出していた水銀産出国でした。それくらい身近な物質だったわけで、朱色を作るときにも使われていました。これは大昔の話です。現在でも「銀朱」「錆朱」と呼ばれているものがありますが、それが何でできているのかは私は知りません。

もうひとつ旧くから漆器に使われてきた朱色の色素に、顔料があります。これが現在の主流です。顔料というと自然素材のように聞こえますし実際自然素材なのですが、顔料の原材料は鉱物。朱色(赤)の中には、カドミウムが含まれています。

作り手や売り手を問わずインターネットで目にする「木と漆100パーセント、漆器は地球に優しいです」「化学物質はつかっていません」といった言葉は、重大な嘘です。それが朱色なら、朱色の色素には、危険な物質が含まれています。このようなことを書くとどこかの営業妨害になるかもしれませんが、中国産はほとんどがカドミウム入りです。原材料表記の法律がないので、体に害があるものを、さも体に優しいかのように喧伝しているのです。隠すだけでなく騙しているわけです。お気をつけください。

カドミウムは、イタイイタイ病の原因となった物質です。さらに、世界保健機関の下部組織である国際がん研究機関によって、発ガン性物質であると勧告されています。人体に蓄積する期間は長く、約30年。朱色の漆を作るために配合するのは、カドミウムの中でも硫セレン化カドミウムという物質を使います。硫セレン化カドミウムの別名は、カドミウムレッド。規制重金属、つまり毒物です。というのに、口をつけ、摂取する食べ物を入れる器に使われているのです。いくら「自然素材」だからといっても、これなら化学物質のウレタン塗装のほうが、まだましに思えてきます。

さらに、中国産や東南アジア産の漆(器)の多くには、混ぜ物がされています。
何を混ぜているのかと言うと、溶剤。よくわかりませんが、石油です。

溶剤を混ぜると、漆の量は同じでもボリュームをかせぐことができ、コストを抑えることができます。塗ることも簡単になります。溶剤というくらいですから、粘りがなくなります。すると、スプレーガンで吹き付けることができます。エアブラシのようなもので薄く吹き付けるので、乾く(固まる)のも簡単です。日にちも短縮できます。そうして、ものすごく安価な「木と漆」でできた(と謳われている、すばらしい伝統工芸の)漆器が出回っているのです。溶剤を混ぜると耐久性でも劣ります。ちなみに、溶剤を加えた漆は山中でもよく使われています。誰も調べていないのですが、溶剤の混ざった漆(器)のほうが多いというのが「漆器」に携わる人たちの共通認識です。

購入を検討している朱塗りの漆器に害のある物質が含まれているのか否か、というのを見分けることは難しいと思います。そこにつけこんでいるわけですから。判らないことや不安なことがあれば、お店のスタッフやサイトの担当者にどんどん質問するのが良いと思います。それでも、どうせばれないだろうと嘘を重ねる人もいるかもしれません。そんなときは私にお尋ねください。私は、自分の作った漆器でなくても、ちゃんとしたものであればおすすめしています。

少し前に、加賀市と山中町が合併しました。加賀市が、水質調査を行いました。すると排水に、水銀だったかカドミウムだったかが、公表するのがためらわれるほど含まれていました。漆を塗り重ねるときには、研ぎます。研ぐときには、水を使います。朱の漆器を研いだときの排水が、まずいところに流れてしまったのです。合併前は、みんな知っているけれどわざわざ言わなかったことです。でも、小さな街の常識が、世界に通用するはずがありません。ソニーのPSoneの赤い配線にカドミウムが使われていたとして、全ヨーロッパで回収・交換となったことがあります。第三者が騒ぎ出す前に洗いざらい伝えてしまうほうが良いし、イタイイタイ病と同じことが起きてからでは遅いのです。

こうしたことを知らず、帰郷して家業を継いだ私は、何の疑問もなく朱色を使っていました。カドミウムが入っていると知ったとき、なぜ皆がそんなものを売っているのか驚きました。今は、植物原料の染料を使っています。一部の商品には、黒と同じく酸化鉄を混ぜた「弁柄」を使っています。錆朱と同じ効果を出すときには、米を茹でてデンプンを作り、染料と一緒に漆へ混ぜまています。

このような理由で私が作る漆器は、ほんとうに「自然素材だけを使った、体に害のない漆器」です。山に捨てれば、完全に自然へ還ります。これが「地球に優しい」ということです。ただし、茶道具や調度品など、料理を盛りつけたり口をつけたりしないものには、顔料の朱を使うこともあります。



朱。染料によって出しているので、見慣れている朱とは少し違うかもしれません。




神代朱。お米を茹でてデンプンを作り、染料と一緒に漆へ混ぜます。粘りを増して、むら感を出します。色も、少しくすんで、濃く仕上がります。



参考;
wikipedia「カドミウム」
Google「硫セレン化カドミウム」
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コメント

百瀬様
全てがそうだとは断定できないのですが、鉄です。たとえば山内丸山遺跡から出土した縄文時代の朱塗りは、沼地に生える植物の根っこの周りに付着した鉄「沼鉄」によって色づけされたことが解明されています。水酸化鉄ですね。沼鉄はパイプ状で、板状のものは「鬼板」と呼ばれていたような気がします。縄文土器を焼く温度と同じくらいの低温で還元され、色の材料として使えるものになります。たたら製鉄が始まる遙か前の話で、焚き火くらいの低温で鉄を作っていたわけです。

天然のカドミウムは、どの状態をカドミウムと言うかという問題もありますが、黄色のものもある、といった程度だと思います。赤い塊が土の中にあるということは、ないんじゃないかなあと思います。自分が使わない素材なので判りません。

カドミウムで色づけされた朱塗りの漆器を使って健康に影響があるか否かは「直ちに影響ない」といった感じでしょうかね。ちなみに半減期は15年半です。

富山県は亜鉛の鉱山(岐阜県です)が川の上流にあって、亜鉛採掘ではカドミウムも採れちゃうので、それを垂れ流したために米や野菜を作る水が汚染されて、イタイイタイ病になりました。

ちなみに朱の世界的最重要素材である辰砂(これの色が「朱」色です)は、山口県で今でも採れます。昔の朱肉もこれですね。平たく言うと、水銀です。

古代史をやってます。縄文時代中期頃から漆製品が出土して、赤い色だったと思いますが、その頃は酸化第二鉄の赤色なのか興味があって調べています。カドミウムレットは自然に赤い顔料として存在しているのですか。それなら古代の縄文時代にも使った可能性があるでしょうね。カドミウムは富山県等で産出されるようですが、漆器は好きですが余り使いませんが、祝いの時くらいなら心配ないのでしょうね?。縄文時代の漆の朱は酸化第二鉄なのか解れば教えてください。また最古の漆製品は縄文時代中期でいいのでしょうか。
業者が貴殿みたいに良心的な方ばかりだとうれしいですが。

コメントありがとうございます。

中目黒の漆好き様

コメントありがとうございます。
朱色については、作家や職人も、卸も小売りも、知らないふりをしているだけで、意図的に話題にしないようにしています。漆屋という漆を作っているメーカーが存在していて、職人も作家も、そこから生漆や透漆や黒や朱を購入しています。それが何でできているのかを突っ込むことがなかったのでしょう。ちなみに、色に品がないので敬遠されがちですが、ちょっと濃いめの弁柄朱なら、黒と同じく酸化鉄なので安心です。

漆の世界は、そろそろ正直に開示しないといけないと感じています。
何の影響力もないブログですが、ほんとうのことを書いていき、
漆についてのアーカイブにできればと思っています。

not subject

一通り読ませてもらい、自宅にある朱系の漆器たちを疑いの眼で思い出しています。基本的には溜が好きですから朱系は少ないのですが、銀朱といわれる碗もあります、、恐いですな。ニ酸化鉄に反応してできる黒と違い、朱系は何がしらかの「混ぜ物」があるということは、知ってはいましたが、改めて認識せんといけませんね。カドミウム入りですか?と訪ねても、日本産か中国産というだけで、成分構成を知らない職人さんや作家さんたちがいるのも事実です。。。ええブログですよ、勉強になりました。
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