『ドイツ』の文学

本のトラックバック企画の25回。お題はnyuさん。
ドイツは、質実剛健、固くて重くて冷たい、紋切型通りの印象。
ベルリンで行われるテクノイベントには一度だけ訪れたことがあります。
ドイツ(語)といえばツェラーン、ムージル、ゲーテ。
とにかく長いというのが、私のイメージです。
最初にドイツ/ドイツ語を意識したのは、ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』でした。
オーストリアの大富豪の家に生まれたウィトゲンシュタインが操る、一切無駄のない文。
これは詩とも言える、言語<について>の結晶。
とはいうものの、ドイツ語は挨拶程度しか解らず、読むのはすべて日本語訳です。



■ベルンハルト『消去』みすず書房
近年のドイツ語圏小説家の中で、最も気に入りました。
言葉を発し続けないと死んでしまうという観念に支配された、
改行のない上下巻のエネルギーに圧倒されました。
どの批評家よりも正しく批評していた全く無名の知人が昨年自殺し、
さらに私の中では特別な一冊となりました。

■クライスト『チリの地震』王国社
作品論と作家論を混濁されがちで、誤解されたままの人、クライスト。
これは短編集。日本語訳は種村季弘。
一文一文を独立させ分解しても、何ということのない平易な文。
でも、そこから何かが生まれ、きちんと表現されている、すばらしい翻訳。

■ヘルマン・ブロッホ『夢遊の人々』ちくま文庫
これには参りました。
どうしてこんなにすばらしい小説が、ほとんど知られていないのでしょうか。
ナチスが台頭する前の危険な徴候と宿命的な流れを遡って思索する大作。
ドイツという国家の精神的/集団的な成り立ち/像を描写した、歴史の記録。
詩、戯曲、論考など、さまざまな手法を混ぜた、ただ長いだけではない作品。

■ノヴァーリス『青い花』岩波文庫
ドイツ文学に入れ込まなかった私が、初めてその結晶美を知った作品。
美を追求していくと辿り着く場所のひとつ、石・鉱物。
甘口ではないロマンチズム、憧憬と夢。ドイツロマン派を代表する名作。

■ヘルダーリン『ヘルダーリン詩集』岩波文庫
ある掲示板で「ゲーテとヘルダーリンの違いは?」と訊かれ、私は
「ゲーテは強靱で重厚な重戦車、ヘルダーリンは怜悧な針」と答えました。
重苦しいという私のドイツに対するイメージが転回された、美しく儚い詩。
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コメント

多摩のいずみ様ありがとうございます

多摩のいずみ様

ごぶさたしております。コメントありがとうございます。
ドイツ文学関係者が腐敗しているか否かは私の手に負いかねる問題ですが、
紹介者の匙加減ひとつで地図が大きく変わりますね。
無難なものは、すなわち一般受けするもの、間口の広いもの、すなわち俗なもの、に繋がりがちです。
(ゲーデが俗物と言っているわけではありません)
種村季弘氏のようにキャラが確立されると、それはそれで別の問題を孕んでいる気がしますし。
(ある種の澁澤ファンの女の子のように)

私も最初に読んだ『論理哲学論考』は中央公論社版でした。
さっぱり解らず、急に難しくなり、
小中学校の頃、いきなり算数の授業についていけなかったことを思い出しました。
それから論理学の基本を勉強して、どうにか読みました。
誰の訳/誰の解釈が正しいかは派閥的/学閥的なものがありますが、
野矢茂樹訳の岩波文庫がいちばん分りやすいです。

『モナドロジー』はおもしろいですね。
モナドの成り立ち方としては還元主義と近いのかなと思っていたのですが、まるで違いました。
展開される関係や変化の仕組みについては今でも独創的ですね。
緻密な論理で解き明かそうという目論見は、ライプニッツもウィトゲンシュタインも共通です。
ライプニッツは内容も多彩、ゆったりとして上品な装飾がされた感じで、
ウィトゲンシュタインは装飾を削ぎ落として、彼の文章(と構成)そのものが論理を説明しています。
ですので『論理哲学論考』は数学ですね。私はそこにエレガンスを感じました。

こちらこそよろしくお願いします。

ご無沙汰です

ご無沙汰しております。
ブロッホは、たしかにもっと評価されて当然のように思われます。
それというのも、いまだにドイツ文学というと、「ゲーテだ、ヘッセだ、トーマス・マンだ」と
無難な路線ばかり喧伝する、堕落腐敗したドイツ文学関係者たちの責任だと
痛感いたします。
ヴィトゲンシュタイン『論理哲学論考』は、最初は中央公論社版で読んで、さっぱりわかりませんで、
次に大修館版で読んで、やはりわかったようなわからないような。
でも、数学的なイメージは何となく伝わってきました。
論理的な緻密さから感触的なものを感じたのは、ライプニッツの『モナドロジー』以来です。
ノヴァーリスは、まだまだ解明されていない部分が多い点に魅力を感じます。
ともあれ、今後ともよろしくお願いいたします。

ワルツ様ありがとうございます

ワルツ様

こんばんは。
難しくないです。ハイデッガーのほうが100万倍難しいです。
理解できていないので取り上げませんでした。
ヘルダーリンとクライストはワルツさんのお好みと少しかぶるような気がしますよ。

ノヴァーリスとシューマンとは、さすがです。
『Heinrich von Ofterdingen』を思わせる曲、知りたいです。
シューマンは、クララと結婚してから活躍しはじめましたね。
ノヴァーリス(の作品)に影響を受けるのが曲想だけでなく、
実生活にも符牒があるというのはおもしろいです。

ドイツ語文学といえば、カフカ断章を朗読している新譜がECMから出たような、出ていないような。

四季様ありがとうございます

四季様

こんばんは。
そうです、紹介不足でしたがノヴァーリスは詩人です。
「ファンタジック」ではないです。
要約するとファンタジーになってしまいそうですが、
もっと硬質で、(あくまでも私の読書遍歴において)独特の質感を持っています。

某掲示板で「フレンチポップ」という綽名を頂戴したこともある私なので、
ほんとうにドイツは読んでいるとは言えません。
いま集英社文庫で『ファウスト』を読んでいるところです。

岩波文庫は製版フィルムを大切に使い続けますね。
クライストは『ミヒャエル・コールハースの運命』と迷ったのですが、
フィルムが磨耗して文字がつぶれていて、
とても読みづらいのでやめておきました。

ちなみに苦手な書体は講談社文庫です。
でも、ミステリにはぴったりの書体だとは思います。

not subject

kotaさん、こんばんは。いつもながらすごい難しそうな本ばかりで私などコメントさせてもらうのがおこがましいです。
唯一読んだ事(?)というか、ざっと眺めた事があるのが、ノーヴァリスの『青い花』でしょうか。
それも、きちんと読んだのではなくて、シューマンつながりで読みました。
文学青年であったシューマンは、ノーヴァリスの夢想の世界にかなり作曲とか影響を受けたみたいで、青い花を思わせる曲を何曲か作曲しています。
また主人公ハインリッヒ・フォン・エフターデインゲンが、夢に見た青い花のなかの少女を求めて旅立ってゆき、詩人として円熟してゆく所は、シューマンが師の娘クララ・ヴィーク恋をして成就していくのにも似ていると思いました。

not subject

kotaさん、こんにちは。
「青い花」は、詩人が書いた小説なんですね。
ファンタジックな物語なのでしょうか?
ご紹介の中では、これが一番読みたくなりました。
でも、最近の岩波文庫はいいんですけど
少し前の岩波文庫って、フォントが受け付けなくて…
(最近、変わってきましたよね?)
実際に手に取ってみないと、読めるかどうか分かりません(^^;。

nyuさんのところで、「大して読んでない」と書いてらっしゃいましたが
これで「大して読んでない」のであれば、
私なんぞは一体どうすれば… って感じです。(笑)

nyu様

おっしゃる通りですね。フランスの哲学はかなり最近になってきて主流になりましたから、
日本語訳に恵まれています。対して岩波文庫を中心としたドイツは……。
手軽なのは良いのですが、訳が晦渋だと、哲学は難しいものだというイメージを植え付けてしまいます。
ウィトゲンシュタインはウィト自身の英訳で読みました。
やはり日本語訳はどれも読みづらいです。
でも最近、岩波文庫から出た野矢茂樹訳は読みやすいです。
読みやすくても難しいのですが……。
歴史小説は全く読まないのですが『夢遊の人々』は堪能しました。
19世紀末から20世紀初頭の小説を読みあさりたくなりますね。

not subject

こんにちは
私も日本語訳を読むだけのただのドイツファンです。
やっぱりドイツって紋切型なイメージがありますよね。
学問を日本が最初に輸入した国だからでしょうか。
イメージはイメージとしても、それでも岩波から出ているようなドイツ文学を読むには覚悟をきめないと読めません。
ヴィトゲンシュタインなんてとても読めないです(逃
ベルンハルトの『消去』も読もうと思いつつ、なかなか。
ご紹介のなかではヘルマン・ブロッホの『夢遊の人々』は読みました(覚悟をきめて)
「パーゼノウまたはロマン主義 1888年」から各章15年間隔で近代ドイツの転換点を小説で追うところは歴史に興味のある方にはおすすめだと思います。
おっしゃるとおり、ただ長いだけではない、ですね。
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