漆器ができるまで 1:木地 vol.2

漆器ができるまでの工程をご紹介しています。
前回の続きです。
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粗挽きを自然乾燥させたら、次は何をするのか。私は、さらに乾燥させます。


切った木は変形します。変形しきったものを作り、それを挽いて形をつくるわけです。そうすれば、挽いた後に変形することを防ぐことができます。変形を防ぐには、木の中にある水分を抜きます。そのために、粗挽きというものがあるというわけです。ブロック状や円柱の木では、中まで乾燥しません。

乾燥の方法には主に自然乾燥(前回のものそのままです)、真空乾燥、薫煙乾燥(くんえんかんそう)の3つがあります。乾燥性能は、薫煙>真空>自然、の順です。私の作る漆器は、9割が薫煙乾燥したものです。そういうわけで、ここでは主に薫煙乾燥についてご説明します。

薫煙乾燥とはその名の通り、燻した煙で乾燥させる方法のことです。2階建の建物が必要です。1階からみたら天井、2階からみたら床の箇所、1階と2階の境目は、格子状や簀の子状になった、柱を横に組んだものです。1階で煙を燻し、2階に粗挽きを置き、煙をあてて乾燥するわけです。上の画像は、1階です。暗くてわかりづらいですが、煙が充満している様子が少し分かるかと思います。燻す材料は、木地を挽いて出たおがくずです。他に何もエネルギー源を必要としません。これが智恵というものです。

急激に燻しても、木は変化に耐えきれずに割れてしまいます。毎日、じんわりと追い詰めていきます、そのあたりの匙加減が薫煙乾燥において最も難しいところです。

私の作る漆器の材料は、木の内部の水分含有率を、あるパーセンテージ以下にします。自然乾燥では不可能な数値です。そこまですれば、変形を防ぐことができます。それでも変形してしまう場合もあります。木は、動きます。自然そのままの素材なのです。また、なるべく変形しないかたち、変形しても目立たず、使うときに支障のないかたちを考えるのも、私の仕事です。

乾燥させる期間は、木の種類や粗挽きの大きさによって異なりますが、おおよそ2週間から1か月のものが多いです。ものによっては2か月もの間、ずっと煙で燻されています。つまり、木を伐って粗挽きができ、その粗挽きを購入してから、木地師は平均2か月間ひたすら乾燥させることに注力するのです。適当に放置しておいて自然乾燥、ほんの数日で無理矢理水分を取り除く真空乾燥とは、かかる手間と時間が異なります。でも、薫煙乾燥で水分を抜いた材料は、かちんかちんに乾燥しています。

2階です。画像の奥に、粗挽きをひっくり返して積み重ねたものが写っています。床から光がもれています。その隙間から、1階で燻した煙が昇ってくるわけです。



いちばん乾燥させることができるなら、みんな薫煙乾燥にすればいいじゃないかと思われるかもしれません。しかし、現実はそうではありません。山中でも薫煙乾燥は珍しく、多くの「山中漆器」が自然乾燥や真空乾燥で作られています。なぜでしょう。理由は、設備投資が必要なこと、管理が大変なこと、毎日目を離さずに火と煙の面倒を見なければならないこと、ほんの少しの温度と湿度の変化で木が割れてしまうこと、それらのために時間と手間がかかり、人件費がかかること、そのため安く作ることしか考えていないひとは見向きもしないこと、そして、ノウハウを修得しなければならないこと、などが挙げられます。

縦木を使い、薫煙乾燥した木が、いちばん変形しません。拭漆であれば、縦木か横木か木目を見ればすぐに見分けがつきます。年輪の向きを見れば良いだけですから。話が前後してしまいますが、横木のお椀は、味噌汁が漏れ出てくることがるので選ばないでくださいと言うと営業妨害になってしまうので、お気をつけくださいと申し上げておきます。

薫煙乾燥が終わると、また放置して、ふつうの環境に慣らします。平均1か月です。これは前回と見た目も方法も同じなので単独の項目は省きます。というわけで4か月が過ぎました。

次回は、いよいよ木地挽きです。
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コメント

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秀おじ様

コメントありがとうございます。
その誇りを維持する人が目に見えて減り続けていますが、がんばります。

すごい!

地道な作業ですね。でも日本人の誇りだとお思い増す。
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