金色夜叉の灰野敬二

ブログに書こうかどうか悩んだときは、書かないほうが賢明であることが多いです。でも書きます。

坂本龍一氏や矢野沙織氏など世界の表舞台で活躍する「ハイプ」は数多く存在することを踏まえ、改めて「世界に通用する日本の現役ミュージシャンは誰か?」と問われたら。私は即答できます。「灰野敬二」と。その灰野敬二が17日夜から18日明け方にかけて行われた、私の住まいの近くの、とんでもない山奥にある、とんでもなくバラックな建物で開催されたイベント「金色夜叉」に出演しました。
マスメディアはおろか音楽メディアですら、灰野敬二を取り上げることがありません。なぜなら、メディアとは広告で成り立っているからです。そして、彼はビジネスマンではなくミュージシャンです。権威や肩書きや称号が大好きなミュージシャンが海外で活躍する話題ばかりがニュースソースになりますが、紡ぎ出す音楽のみで灰野敬二は海外を相手にしており、知名度など意に介さない審美眼を持った人たちの圧倒的な支持を獲得しています。イタリアやフランスの知人も知っていて、死ぬまでにライブを体験したいミュージシャンのひとりとして名前を挙げます。ヨーロッパのツアーはチケットがすぐになくなります。

最初は15年前に購入した、バンド形式である不失者の1st『不失者』でした。何度かライブも観ました。憧れていた本人が目の前にいる、といった軽薄な(しかしこれも立派な動機である)理由で感動するのではなく、音楽はライブでなければ、というあたりまえのことを灰野敬二のライブで強烈な衝撃と共に体験しました。そもそも毎日の生活が“live”であり、仕事をしているパブリックな時間は、どんな職業でもライブとも言えます。私は灰野敬二のせいで、サイケデリアとは音楽のジャンルではなく、音楽の機能であり体験するものだということを知ってしまいました。私のフェイバリットは、不失者としての2ndアルバム『LIVE』です。画像は2ndで、1stとまったく同じデザインです。



「山奥の音楽イベント」という言葉から連想する「ピースフルでマイナスイオンで、ちょっぴりロハスな雰囲気でチルアウト、ゴミはエコバッグで持ち帰りましょう」とは全く異なります。俗世と隔絶した場所での、秘祭です。情報にはさまざまな種類があり、知っている人だけが体験できる、独自のネットワークによって広がるものがあります。ネットが発達した現代でもというより、情報の洪水とも言える現代だからこそ、表に出ない情報というものは存在します。

灰野敬二はギタリスト。ほとんど即興と思われる、フィードバックとリバーブによって織り成されるギターノイズの洪水。音楽とは音なので、波が空気を伝って耳に届くものなのですが、灰野敬二の奏でる音は、その場所の空気中に音が充満します。時間芸術であり、音の波であるはずの音楽が、それらの成立要件を解体しています。時間が崩壊します。唯一無二の音楽です。西洋人が衝撃を受ける理由が解ります。灰野敬二の創成手段は、世界標準となった西洋の文法ではないのです。

恐らく、石川県在住の音楽好きを自認する人たちのほとんどが知らなかったイベントだと思います。東京や大阪からたくさんの人が電車とバスを乗り継いだり、自転車を借りて小松駅から1時間以上かけて山を登って訪れていました。そうして辿り着いたところが廃校の体育館というのがすばらしいです。テントを借りてキャンプしている人たちもいました。テントを借りずに朝のバスまで夜を明かす人たちもいました。最寄りのバス停までは徒歩30分です。それだけの労力をかけても人が集まるイベントへクルマを運転して片道20分で行けるというのは、誰に感謝すれば良いのか分かりませんが感謝したくなります。と思っていたら某SNSで主催者を発見しました。

ちなみに現役でない日本のミュージシャンでは、女性歌手だと佐井好子、演奏者だと阿部薫、作曲者だと伊福部昭、コンポーザーだと小杉武久(死んだという話は聞いていないのですが)がフェイバリットです。文芸にたとえるならというか、まさに佐井は谷崎潤一郎や夢野久作、阿部はセリーヌです。とはいうものの、真に美味なるものがファーストインプレッションで苦味や渋味を感じるように、彼らの音楽には毒があり、生理的/本能的に拒絶してしまうと思います。それが健康体である証とも言えます。しかし、彼らの音楽には深遠なる知と類い稀な芸術があります。
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コメント

not subject

>あや様
こんばんは。ブログもやられていたんですね。知りませんでした。
そうなんですよね、独特のルックスというか髪型で、私は最初拒絶しました。阿部薫と鈴木いずみは最高です。鈴木いずみの全集がほしいのですが、諸々の事情で入手できていません。灰野敬二や阿部薫の音楽は、生で聴かないと真髄は体験できないと思います。とても残念です。何度か観た映像によって動く阿部薫を目でも受け取り、それからようやくCDを聴いても、音楽が音楽として、阿部薫がどんな思いでサックスを吹いていたのかが、少しだけ伝わるようになりました。胸に突き刺さります。

>swing様
こんばんは。こちらこそお世話になっております。
私はいつも私です。というより、swingにいるときの私は私でこれまでと変わらずお願いします。

はじめまして

いつもお世話になっています。
ふとした事で足を運びました。
今まで知らなかったあなたを一部を見つけた気がしています。
これから少しづづ訪問させて頂きます。
素敵なブログでした。

not subject

こんにちは。
灰野敬ニさんは名前と独特なルックスだけ何かで見たことがあるくらいです。多分阿部薫&鈴木いづみにはまっていた時でしょうか。
阿部薫のCDを聴いた時に感じたのは、このヒトの音楽の良さはCDでは分からないのかも・・・ってコトです。その空間にいてこそ、音自体を実感をもって感じる事ができるのかも。
(実際その場で聴いていないのでわからないですが。)
そういう場所でそんなヒトのライブがあるなんて、驚きです。

not subject

shosen様
おはようございます。
私はマジカル・パワー・マコを名前しか知りません……。大阪のアルケミーレコードにはお世話になっているのですが、日本の、そのあたりの系譜には詳しくないんです。

灰野敬二の映像はYoutubeにたくさんあります。バンド形式、ソロ、DJと、このあたりのご多分にもれず、一言で言い表わすことが難しい音楽性の振れ幅を持っています。もしかしたらその中のどれかが、山本精一のプロジェクトのどれかと似ているかもしれませんね。ヴァイオリンが特徴のROVOしか観たことも聴いたこともないので何とも言えないです。

不失者は、バンド形式なので聴きやすいです。メジャーなところだと、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの2ndのB面やマイ・ブラディ・ヴァレンタインのシングル「You made me realise」のブレイク部分に似ているといえば似ているような気がします。轟音ギターのサイケデリックですね。私が好きな2nd『LIVE』は、曲目表示もないですしトラック分けもされていません。二枚組150分、延々ギターノイズです。遠くから声が聴こえてきますが、聴き取ろうとすると、ライブと同じくらいのボリュームになっちゃいます。ジャンルは違いますが、構造としてはエクスペリメンタル・オーディオ・リサーチが近いように感じます。

灰野敬二

お名前だけは知っています。マジカル・パワー・マコのアルバムで、怒声(笑)で参加されているという情報で・・。
ただ、音楽となるとまったく知りません。たとえば、山本精一なんかは、そのあたりの後輩格(?)になるのでしょうか??
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