『あなたの街が舞台になった本』

お題に沿った本を挙げる、本のトラックバック企画に参加します。今回のお題はきみ駒さん。詳しくはリンク先をどうぞ。
人格形成は15年過ごした東京なのですが、引越し15回という思い入れのなさで当時から定評があったのでやめておきます。加賀市にも思い入れはないのですが、他に誰も参加しないと思うので加賀市でいきます。心のふるさとは、内緒です。典型的な、どこにでもある田舎、石川県加賀市。それはもう文化果つる地で、物語の舞台になるといえば2時間サスペンスか午後1時半からの帯ドラマ。人が死んだり犯人が捕まるのは、渓谷に架かった橋、またはエロール・ガーナー「コンサート・バイ・ザ・シー」のような岩場の日本海。輩出した有名人といえばダンディ坂野。あとは、いまわしき百名山(なぜいまわしいかというと、ここ参照)の深田久弥くらいしか知られていない始末。石川県に拡げれば金沢があるので、きら星のごとく文芸作品があふれています。鏡花はもちろんのこと古井由吉や三島由紀夫など紹介したい絶品揃いですが、意地でも挙げません。お題が「文芸作品」ではなく「本」なので、いっそ料理や器の本にしようか、それとも人名事典や郷土史のような超ローカルなものにしようか、などと一瞬考えたりしました。単純に舞台になっただけであれば、西村京太郎の膨大な著作の中に電車で通り過ぎる話があるかもしれません。また『奥の細道』でも不自然なくらい長期滞在(そんなに長く何を調べていたのだろう)していますが、そんなことを言い出したらきりがないのでやめておきます。



■吉田健一『金沢』講談社文芸文庫
金沢が中心の話だけれど加賀温泉郷にも足を延ばしているので挙げるわけですが金沢だろうと鶴来だろうと温泉だろうと加賀暖簾や九谷焼など工芸の話をしながら延々と食べて飲んでいるのが吉田茂の息子として生まれて海外生活が長かった吉田健一ならではというべきか根っからの健啖とペダントリーが彼の文体に特有の酩酊感によって流れるように綴られた非常に心地よい中編であり吉田健一といえば読点が少なく息の長い文体のために今では読まれることの少ない人だけれども「金沢」では長くても四行くらいなのでほろ酔い気分が続く読書の快楽を与えてくれるので同じように体験したいと思ったら実名で出ていることがほとんどだし史料も残っているので彼の行程をなぞることができますが粟津温泉において宗代の銘器で酒を飲むというところまでまったく同じように体験することは難しいと思われます。

■北大路魯山人『魯山人味道』中公文庫
若い頃は絵描きだったか看板屋だったかで生活は困窮、金沢の人と知り合って山代温泉(私が通ったというかあまり通わなかった小学校のあるところ)へ流れてきました。そこで魯山人は書と看板の両方ができるということで旅館の看板制作の仕事をもらうようになり、ついでにちゃっかり九谷焼(九谷焼といえば現在は石川県能美市ですが、あれは歴史が分断されていて、古九谷は現在の加賀市です)を勉強し、後年は料理そして陶芸の世界で名を成した魯山人。タイトルの通り、食べ物の話です。見事に、魯山人が行ったことのあるところだけで比較対照して断言しています。つまり、東京と京都と加賀が中心です。静岡のシラスや佐賀関の鯖などは登場しません。加賀は、春先の鯛が明石よりも美味だそうです。でも春先だけで、他の時期は不味いとのこと。反論したら美食倶楽部と星岡茶寮をダブルで破門されそうな勢いです。こわいこわい。うちから歩いて20分ほどのところに、寓居跡があります。

■中谷宇吉郎『雪』岩波文庫
加賀市が生んだ、唯一岩波文庫に収録されている人。しかも、岩波文庫には自然科学が数えるほどしかなかったと思います。分類では日本現代文学であるはずの緑帯。中谷宇吉郎は雪に魅了された人で、結晶のかたちを分類した「ナカヤ・ダイヤグラム」は世界的に有名。最近でも雑誌「ku:nel」に取り上げられたりして、その手の人たちに人気。ああ、ほんとうにこの人は雪がすきなんだなあと実感できる一冊。地元度は随筆のほうが高いのですが、中谷を読むなら『雪』で決まりです。市内には雪の科学館があり、ダイヤモンドダストの実演がおもしろいです。なにもないところに突然ダイヤモンドダストが生まれ、手で触れるというか手を入れることができます。氷が内部から溶けると雪の結晶のような模様ができるチンダル像を作って観察することもできます。中谷が世界で初めて人工雪の生成に成功したので、そういう体験型の施設になっているわけですね。何度も通う施設でもないので、いつもしんとしています。なので私は夏、緩く傾斜した芝生の前庭というかスロープで、読書しながらお酒を飲み、うとうとしています。隣の小松市にある苔の庭と並んで、私のぐうたらスポットです。
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コメント

not subject

天藍様

はじめまして。お返事遅くなりました。
加賀市のご出身なのでしょうか。
塩屋の海、ぜんぜん行っていません。

雪の科学館、一度は行ってみるといいと思いますよ。
おもしろいですし、中谷が興味を持ったのも解ります。

ブログをやられていてURLを間違えたのかダミーなのか判りませんが、
ページが表示されませんでした。

はじめまして

こんばんはー。天藍と申します。
ぉわ。加賀の方がいらして嬉しいですー!
加賀棒茶、れんの羊羹、山中漆器に塩屋の海。。ふふふ。

>中谷宇吉郎
雪の科学館、行ったことがないのですよねえ…
中谷宇吉郎の名前は、地元にいた時に授業で聞いたことがあるような気が。何でだったか一寸思い出せないですが。
そういえば。うーん、もうすぐ雪の季節ですねえ…。
実際降り始めると愛でるどころじゃないですけども。。今年も頑張って乗り切りましょう(笑)

not subject

きみ駒様
主催おつかれさまです。ナイスお題です。
心のふるさとと、いつもどんな世界で愉しんでいるのかは、口が裂けても……。
加賀に訪れたことのある人の割合が高いのは、40代以上の関西圏の男性です。
今日もこっちは、いい天気でした。
秋が深まると、空気が肌に差し込んでくる感じが、好きです。

ありがとうございます

kotaさん、こんばんは。
ご参加ありがとうございます!
心のふるさとは内緒なんですね。了解(*^ - ^*)

福井にも金沢にも降り立っているんですが、加賀には行った事ないです。
加賀、といえば百万石。(あ、むつぞーさんがもう既に)
…あら、金沢のことなんですか。ふむふむ。

魯山人と言えば、美食倶楽部でしたっけ。(Wikipediaを見る)
…うわぁ!虫嫌いなんですー死因の話はだめです。鳥肌モノです。うううう。
違う話をしましょう。
今日はいいお天気でした。秋も深まってきましたねー。

てことで、えっと、kotaさん、今後ともよろしくですー。

not subject

四季様
「金沢」の印象をコメントするためにそのような文体練習をされるのは四季さんよりももっと練習しなければならない人たちがいるのではないかという思いを抱えつつ文体練習だけで4年間過ごした私がご返信いたしますが学校の授業というのは定型的な文法を教育委員会の指導要項通りに最低限とりあえず教えたか否かという体裁だけを繕っている場合がほとんどで様式美にすぎないのでないかという疑念がありますけれど受験には何ら関係のないことなので疎かになっているような気がしないでもないです。
少し昔の小説は、書き手によっては句読点のないものもありました。それでも読みやすいですし、作品世界に没頭できました。「文体」にはさまざまなものがあるということを知るだけでも、言葉にセンシティブになるのではと淡い期待を抱いています。
ダイヤモンドダスト、いいですよ。私は、百発百中です(何が!?)。

ワルツ様
金沢の偉大さを身に染みているからこそ除外したくなったのかもしれません(噫、今日は何と正直なことか)。エロール・ガーナーのあのアルバムに収録されている「枯葉」の何とも言えないノリノリ感に、ときどき腰くだけになります。うちの近くは視界の境界線まで砂浜が続いたり、奇妙きてれつな岩場があったり。むしろあの女性のように思う存分歌いたいだけ歌わせてあげないと間というか場が持たなくなるくらい貧相な海辺だったりします。ただ、夕陽は綺麗です。
魯山人とイメージが重なるのは有り難いと言いますか何と言うか……傲慢さと不正確さ(ビール間違え事件など)は、かけがえのない教師です。生み出す力は、比べるまでもないのは充分承知の上で。
伊吹山でスキー、できなくなる日がくるかもしれませんよ。生態系を破壊するのは、人間だけです。

not subject

kotaさん、こんばんは。
金沢市と加賀市、地元の方にとっては、違いというか、こだわりを感じました。
>エロール・ガーナー「コンサート・バイ・ザ・シー」のような岩場の日本海。
あのジャケットは、女性のポーズと共にすごくインパクトあります。(笑)あんな感じの岩場、海岸なのですねー。
魯山人のこの本は、私も実は持っています。
なんだか、kotaさんにイメージが重なりますよ。
深田久弥の百名山のシリーズ、好きです。関西では伊吹山も入ってますもん。
って思ったら、リンクしておられる所から平ヶ岳の無残な記事を読みました。う~~ん、う~~ん、いやですねー。

not subject

kotaさん、こんにちは。
「金沢」の紹介文、なんかすごいなと思ったら、
そういう文体の作品だったんですね。
これだけ句読点がないのにkotaさんの文章が全然読みにくくないというのはスゴイなと思ってみると句読点というのは文章を書くのが下手な人と文章を読むのが苦手な人のために存在していたのだということに今更ながら気がついたわけですがそんなこと学校で習った覚えはないわけで学校では一体どういう説明をしていたのだろうと改めて気になってしまいます。
…と真似してみようとしたけど、続きません。難しいです。(笑)

北大路魯山人の本も美味しそうで気になりますが
(私の魯山人に関する知識は、「美味しんぼ」で読んだものだけ…)
それより「雪」! 雪の科学館いいですね。
ダイヤモンドダスト、子供の頃からずっと憧れてたんです。
いつか見に行きたいと思ってたんですが、こんな近くで見れるとはー。
それはいいことを伺いました。ありがとうございます!
本もぜひ読んでみたいです。

not subject

>むつぞー様
おはようございます。コメントありがとうございます。
「加賀」というと「百万石」ですね。
でも、その「加賀」は、現在の加賀市ではなく加賀藩、金沢のことなんです……。
加賀市だけだと、十万石でした。

>kyokyom様
おはようございます。
ちゃっかりかどうかは解らないです。でも「研究」と称するのも何か違うと思います。
山代温泉では沢庵の美味しさに毎日うつつを抜かしていたとも言われています。
笠間日動美術館の別館、いいですね。行ってみたいです。
茶室の壁が何でできているのか気になります。
持って帰れそうということは触ることができるのでしょうか。
ものすごく近づいて観ることができるのはいいですね。
茨城のお茶は、渋くてカテキンが濃い味の奥久慈茶が好きです。
水戸光圀が愛した薮北似の古内茶も美味しいですね。
お茶全体の話になりますが、飲んでみたいのは青柳茶と碁石茶です。

>LIN様
あはは。確かに魯という漢字は日本らしくはないですね。
絵描きのころの福田大観なら、日本的な名前なのですが。
美食家は多かれ少なかれ下手物好き、如何物好きです。
ちなみに魯山人には、ビールの銘柄を間違えたエピソードがあります。
中谷宇吉郎は知られていないですね。地元でも無名です。
岩波文庫に収録されることのすごさを知らないというか、
市内の書店には岩波文庫がありません。
岩波をはじめ国書刊行会など私の好きな出版社は買取制なので……。
永平寺まではクルマで40分です。観光で行くと、観光です。

not subject

魯山人って中国人だと思ってました!(アイタタタ)
死因が肝吸虫で、タニシもしくはコイ科の小魚が原因とか…
ゲテモノ食い?(笑)
中谷宇吉郎という方は知りませんでした。
人工雪を開発された方なのですね。
地図を見たら、加賀は永平寺が近いのですね。
永平寺を舞台にした作品もたくさんありそうな気がします。

こんにちは

kotaさん、お邪魔します。
僕が読んだことがあるのは『魯山人味道』だけですが、マンガ『美味しんぼ』でこの人の存在を知りました。
>ついでにちゃっかり~九谷焼を勉強し
あはは、ちゃっかり勉強したのですか。傲慢さで有名な魯山人が聞いたら、逆上しそうですね(笑)
茨城にある笠間日動美術館には、別館として魯山人が北鎌倉で住んでいた家が移築されています。10年ほど前に遊びに行ったきりなのですが、平日は人もまばらで、そこらへんに飾られている魯山人の作品を簡単に持って帰れそうで、そのセキュリティの甘さを勝手に心配しておりました。

ところで、上の記事を拝見しましたが、茨城にもいいお茶があるのですか~。筑波山のふもとでお茶を作っているという話をちらっと聞いたことはあるのですが、kotaさんが好まれるようなお茶がつくられていたのですね。驚きました。

ごめんなさ~い

こんにちわ、ごぶさたしてます。
加賀といえば百万石…というイメージと、九谷焼とかのイメージですよね。
ところで、トラックバック間違えて送ってしまいました‥。
先比送った方がミスなので削除していただけますか?
ごめんなさい。
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