能登、七尾の幸寿司

京都から建築家のM氏とH旅館の息子さんが遊びに来る。木地と塗りは口で説明すれば想像がつくので、下地職人のところへ行って下地という工程がどのようなものかを見てもらう。そのあと温泉につかっていただき、夜は白海老に甘海老(石川県の海老は、ガス海老がいちばん美味しいという胃見もある)、牡蠣、金時草などを。翌11月1日は何をしたかというと和倉温泉にある角偉三郎美術館を3人で訪れるのがメインの能登行脚だったはずなのだけれど、角よりも辻口よりもタイトルの寿司屋がいちばん印象に残った。
私は名前が「寿司となっている店よりも「鮨」となっている店のほうが好きだし、訪れてみて店構えで失敗したかなと思った。ネットで検索すればお分かりの通り、サイトはない。話は逸れますが、ほんとうにおいしくて上質の固定客を獲得している飲食店はサイトを持っていないことが多い。客も、自分が楽しんでいるところが一時期うるさくなるのは嫌がる。ほんとうの富裕層がプライベート確保のためにお金を遣うのと同じことです。店が回転率とか話題性とか移り気な浮遊層を繋ぎ止めておくためにおかしなことを始め、サービスの質は低下し、目が行き届かなくなり、しまいには寂れるという最悪の事態になることは避けたいので、レビューなどもあまり見あたらない。私がほんとうにお気に入りの店の名前を秘すのも同様の理由だし、ネットのグルメ情報など信用していない私にとってはザガットサーベイやライブドアグルメやHanakoやChouChouもむしろ候補から外すためにしか役に立たない。幸寿司を紹介しているのはここがあった(リンク先の記事ではカウンターだけとなっているが、小上がりもある。この記事を書いた人は石川県の人ではなさそうで、地元贔屓でないところがとても好感が持てます。しかしながら全国の鮨で一番というのは流石にないかなとも思います)。ではなぜここを紹介するかというと、滅多に行かないだろうし、上客にはなりえないからである。その上で、地元の常連客だけが愉しんでいるのか、旅行ついでらしき客が多いのかを見て、後者であれば紹介するといった感じです。もしくは、すでにネットに情報があふれている店なら、私ひとりが挙げようが挙げまいが大勢に影響はないのでとりあげます。紹介してくれてありがとう、などと言う飲食店は、問題外です。

さてそんな幸寿司ですが、外で少し待ち、座ってからもっと待った。先客に供される寿司を横目で見ながら待つこと粉茶が一杯なくなるくらい。ようやくいただいてみて驚いた。田舎の寿司といえば鮮度の高い地のものを使うことだけが売り(「ねたが新鮮!」というのは褒め言葉でも何でもなく最低限の仕事であり新鮮なだけでは駄目で、その日に揚がった新鮮なものの中から美味しいものだけを仕入れる目利きの力も問われるのだが、どれだけネットを観てもそのことに言及している人はいない。スーパーの豚肉は売れ残ったら惣菜のとんかつになり、それも売れ残ったらかつ丼になるのですが、そんなかつ丼を閉店間際の割引で購入して常食している人なら新鮮さが何よりもありがたいということになるのかもしれません)で、包丁さばきは大ざっぱ、ねたは大きくしゃりも大きいというのがおおよそ、もしくは奇を衒った創作和食のような寿司屋なのですが、ここは正反対。繊細で上品な寿司。つめや煮きりもさっぱり味。やわらかな鮮烈さ。

おまかせで14貫、そのうち醤油をつけたのは2貫だけ。鮨は醤油をつけて食べるものではないと思っている、私の好みにぴったりです。14貫のうち12貫なら、立派な江戸前です。能登の塩でいただく甘海老や烏賊は確かに美味しかったのですが、あえて言うなら酢橘や紅葉おろしなどで流れにアクセントがほしかった。という要望は江戸前ではないのかもしれないけれども、鮨といえば小肌(シンコ)と穴子と煮蛤は毎年必ず食べたい私なのですがそれらが一切ない田舎の寿司であればそういうのもありかなと思うわけです。つけ台の向こうは狭そうなのですが、寿司を口に入れると舌に吸いつくような見事な包丁さばき。ともあれ、赤西貝や白海老(軍艦ではなく握り。私は軍艦があまり好きではない)や肝をのせたかわはぎなど、七尾湾や富山湾のねたを堪能。最後を雲丹(これも軍艦ではなく握り)で締めるのも新鮮。儚く消えて、いつまでも余韻が残る寿司でした。

角偉三郎は、指で漆を塗った人です。角偉三郎美術館に合鹿椀があれば購入しようと思っていました。でも、仕方のないことかもしれませんが、息子が塗ったものしか販売されていませんでした。角偉三郎の器は、とても強い力を放っています。それが、あの施設には、ありませんでした。
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コメント

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京都にいる工芸好き様

おっしゃること解ります。お店を出たときの私たちの感想は、それはそれで間違っていはいないと思います。自慢の能登の塩なので、あれだけ多用したのでしょう。一本調子になってしまうのは、せっかくあれだけ仕事をしているだけに、もったいないです。握りで出てきたクロマグロがなかなかだったので、鉄火巻もかなり美味しいのではないかと、今さらながら思います。

これ書きながら思い出していたら気づいたのですが、わさびがほとんど使われていませんでしたね。

関西には「鮓」も多いですね。江戸前握りの源流、鮨の発祥は鮓ですし(←しゃれではありません)。関西の鮓は、東京に住んでいたころにときどき原宿の八竹で購入して散歩して代々木公園で食べていました。手ごろな値段なのに大阪鮓もおいしいですし鯵の黄身ずしも美味でした(ひとりで懐かしくなっています)。吉野鮓、さぞかし美味しいだろうと想像がふくらみます。次はそこでお願いします(意味不明)。

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Mデス。

先日は運転と案内をありがとうございました。
確かに幸鮨が一番印象に残りましたね。その他は肩すかしをくった感じです。
入店後、しばらく待たされたり、話しにくいこともあり、
お店を出てすぐの評価は適切でなかったかもしれませんが(笑)、確かに良かった。
でも、ネタを直接味わってほしいということなんでしょうが、
やはり塩には柑橘系のアクセントが欲しかったし、
私には鮨が小振りすぎたので、巻物が欲しかったな、と思い出してます。

京都に吉野鮓という行きつけの店があります、一度、くっちゃべりにぜひ。
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