漆のぐいのみ、盃



夏は、冷やの日本酒を漆器でいただくのは暑いというか重いです。
でも冬の熱燗や上燗・温燗・人肌燗・日向燗は、漆器でいただきたいものです。
お酒が好きな人は、味によって器を替えます。ワイングラスと同じことですね。私はあまり数多く日本酒を味わったことがないのですが、好きな人に聞くと、好みのぐいのみや盃は当然のごとく千差万別。その中から、ガラスや陶磁器よりも漆器であることが最上な場合、あれこれ考えて作ります。漆の匂いが日本酒の邪魔をするという方は、一度洗ってから風通しが良くて光の当たらない場所に一週間ほど放置してみてください。

思わずボーリングをしたくなるような配置になってしまいましたが、
いちばん奥の左から右、そしてひとつ手前の列の順に;
・馬上盃 (戦国時代の武将が戦のときに馬に乗りながら飲んだ器です)
・高盃 金銀ちらし(金箔と銀箔をちぎったものをランダムに張ってあります)
・高盃 金(金箔をボウル面に張ってあります)
・徳利(このまま燗をしないでください)
・盃台(その名の通り盃をのせる台です)
・乾漆ぐいのみ(木ではなく和紙です)
・丸ぐいのみ(木地呂で、内側と布貼りした部分は黒です)
・百合型ぐいのみ(内側もすべて拭漆のものもあります)
・黒摺りカップS(正確にはぐいのみを作ったつもりではありません)
・盃 洗朱 貝貼り家紋つき(家紋がなければ1万円です)
・盃 朱 木出し(いちばん気軽に使える盃です)
・べく盃の一つで、芸者遊びというかお客が芸者に楽しく遊ばされるための盃とサイコロ




あまり蒔絵をつけた器は作らないので、ここでとりあげておきます。盃台の絵は、武蔵野蒔絵と呼ばれるもの(のひとつ)です。使う季節は秋ですが、絵ではなく模様といったほうが近いので、細かなことを気にしなければ季節を選びません。金色にも数多くの種類があり、この場合は全面に描かれるので、あまり華美でない金色を選んでいます。蒔絵についてはそのうち詳しく紹介します。




徳利は、中央の黒い帯の部分で、木地が分かれています。上下を別々に挽き、内側の下地を塗りを終えたあとに、錆地(刃物が欠けるくらい固いです。接着剤で手軽に済ませる漆器屋や職人が増えてきましたが、それでは長持ちしません)で接合。その上から布を貼り、さらに錆地を施しています。倒れたときに欠けてしまうのを防ぐため、注ぎ口にも布を巻き、下地と塗りを施しています(布を貼っていることをわざと見せている漆器が増えていますが、あれは長もちしないことが多いのでお気をつけください)。というわけでこれは、手がける人でわけると、木地師→下地師→下塗師→研ぎ師→下地師→上塗師という工程を経ています。東京のお蕎麦屋さんからの注文で蕎麦つゆ入れを作ったときのアイデアを援用しました。直接燗をしないでください。ほんものの溜や木地呂は熱で変色します。木目を合わせるため、原木の段階から手配するので、できあがるまでに2年かかります。ちなみに19,950円です。ちゃんとしたものを作ろうとすると、キャッシュフロー重視の経営など無理です。




現在作っているのが、上の画像の、入れ子になった3つ組の盃。ものすごく薄いです。シャープさに欠ける漆器ですが、そこであきらめたらおしまい。ガラスや金属よりも薄く、そして変形しにくい盃は作ることができるはずです。これは、いちばん薄いところで0.4mmしかありません。おそらく木をろくろで挽いてかたちを作ることのできる限界値だと思います。突板よりも遥かに薄いのに、かたちになっています。ろくろが得意な山中漆器ですが、ここまで薄く挽くことのできる職人は、ほんのわずかです。50歳未満の若手にはいません。1つだけなら作ることができるでしょう。でも、作品ではなく流通する商品として同じかたちを生産できるのは、ごく限られた人だけです。都会の生活に疲れたどなたか、技術を継承してくださいお願いします。



光にかざしてみると、こんな感じです。材料を乾燥させる段階で、割れてしまいやすくなってしまうことがあります。乾燥の仕方にもノウハウがあるわけです。あとは、挽く技術です。これだけ薄いと軽くてふにゃふにゃ、手から離しても葉っぱのようにひらひらと落ちていきます。1メートルの高さからコンクリートに落としても割れません。これに何度も漆を染み込ませ(目止めと言います)、気泡を塞ぎます。それからとりあえず拭漆を施してみて、実用できるものかどうか検証してみます。つまり、お酒を飲むわけです。お酒が漏れてくるようだったら、またどうするか考えます。

他にもたくさんの種類があります。屠蘇器も木と漆だけで作っていますが、これからご注文いただいても間に合いません。2008年のお正月にお使いになるなら、2007年の6月末までにご注文ください。

いちばん上の画像で、何が書かれているところに器が置かれているかというと、私の

The tradition is nowhere;
The tradition is now here.

の、ポスターです。アイデアの援用ですが、気に入っているフレーズです。
関連記事

コメント

not subject

>中目黒にいる工芸好き様
確かぐいのみを入れる籠も(特製のものを)お持ちですよね。
全国の良いものばかりを集めているようで壮観な感じがします。
なかなか蒔絵や粉を蒔いている盃は使われないです。
一通り揃えてから、興味を持ちはじめるもののような気がします。
作り手としては、どの段階の方に、漆の口あたりを知っていただくかも悩みどころです。

今日は山中温泉の旅館でお酒を飲みました。ガラスの盃でした。

※火曜日いっぱいまでにはメール差し上げます。

not subject

これだけ並ぶと圧巻ですね。
うちにも漆のぐい呑みだけで15程あり、増え続けています。
夏は土物で、冬は漆器では同感!
但し、箔や金属粉、蒔絵などをほどこした漆器は、夏でもええ気がします。
さて、今晩はたに屋さんとこの欅のうすい盃で一杯頂くことにします。

*)外溜内黒の重箱、気になりますな。
非公開コメント