女王と王、夢の岸辺

お題がたらいまわしの、本を紹介するトラックバック。
30回目は、創設者のoverQさんです。
今回は「フシギとあやし」で、詳しくはリンク先をご覧ください。

お化けや妖怪が出てくる物語を読むと、なぜか私は笑ってしまいます。
なので、妖しい物語の優れた読者ではありません。
  
 
不思議で怪しいといえば、サッカー元日本代表のあの人。つい先ごろ、めでたく自分探しの旅が地球4周ぶんを越えたそうです。あれくらいの人になると、そんじょそこらには転がっていないのかもしれませんが、まだ見つからないのでしょうか。ちゃんと探しているのでしょうか。見つけにくいものですか。まだまだ探すつもりですか。それより僕と踊りませんか。

昔から、あっち側に行った人にも興味が向きます。ふつうの人では視ることのできないものを表出してくれるからです。変人や狂人を気取っている人には、決して辿り着けないところに彼らは住んでいます。アルトー、ヘルダーリン、ノヴァーリス、レーモン・ルーセル。音楽ではヤン・クシュチテル・ヴァンハル、ニック・ドレイク、St.ミカエル、シド・バレット、ソニック・ブーム。でもそれらはほんとにあぶないので、うつつな彼誰時、そして逢魔時にぴったりのものを。



アーサー・マッケン『夢の丘』
幻想文学の傑作とされています。でも、幻想小説でもなく、怪奇小説でもなく。「象徴小説」というジャンルがあれば、これが金字塔間違いなしです。既に存在している「象徴主義」とは異なり、象徴という言葉そのもの。主人公は作家になることを夢見てロンドンに出てくるのですが、えらいことになります。大御所ラヴクラフトに影響を与えた、怪奇小説の第一人者。秘密結社にも所属。ちなみに朝松健というホラー小説家は、アーサー・マッケンから名前をとりました。

ネルヴァル『暁の女王と精霊の王の物語』
この人はすごいです。ほんものです。晩年は、ザリガニを紐で結んで散歩させていました。影響を与えた人は数知れず。入手しやすいのは『火の娘』ですが、今回のお題には、これがどんぴしゃです。東方旅行の際に聞いた話が基になっています。この作品を最初に評論したのは若き日のラフカディオ・ハーンで、タイトルは「狂える浪漫主義者」でした。ルドヴィコ・アリオストみたいですね。残念ながら角川文庫版は絶版で、現在は大長編の一部となり、筑摩版全集の第3巻に収録されています。高価です。

ジュリアン・グラック『シルトの岸辺』
今回のお題に私が挙げるのは、これ一冊で充分なくらいです。ほんとうにすばらしいです。文学史のどこにも属していない孤高の作家による、ゴングール賞受賞拒否作。ドイツロマン主義とシュルレアリスムの融合。薫り高い文体に、すぐに架空の世界へいざなわれます。小説内の空気が弛緩したり緊張したりするのを最も感じた本。それくらい文章が精密。3年前に文庫で復刊されたときは狂喜しました。もう何度読んだかわかりません。まさしく「文芸」と呼べるこの小説については3時間でも6時間でも語ることができるのですが、だったら読んだほうが早いです。いますぐ注文してください。

三島由紀夫が耽溺した、グラックの『陰鬱な美青年』を、ずっと探しています。

逢魔時は、欧米ではトワイライトゾーンと呼ばれ、東西問わず不思議な時間帯と感じるようです。ただ、そうなった理由は、まったく異なります。今でも運輸業界と物流業界の事故は、逢魔時(大禍時)に多いようです。夕方は、誰かとすれ違ったら「自分は妖怪ではありませんよ」と相手に伝えるために、自分の名前を名乗って挨拶しましょう。「名」という漢字は「夕」に「口」です。名の由来はそんなわけあるはずがない(夕は月)のですが、私は、この説が好きです。また「夢」の部首は、草冠ではなく夕です。
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コメント

not subject

最寄りの図書館に取り寄せできるといいですね。
漆器のフォロー、恐縮です。

not subject

わ~、図書館、調べて下さって、どうも有り難うございます。
お忙しいのにお手を煩わせてしまって恐縮してます。
醍醐はちょっと遠いのですが、でもこの本にめぐりあえなかったら、そこまで行ってみますね。(*^。^*)
本当にどうも有り難うございますー。

kotaさんの漆器は、静謐で・・・と思えば、時には馥郁とした艶やかさを放って。
そこにあるだけで言葉を持っていると思いますよ。

not subject

ワルツ様
こんにちは。コメントありがとうございます。
自分が作った漆器のおすすめ上手になりたいです。自分……不器用なので。
図書館での探す楽しみを奪うかもしれませんが、
シルトの岸辺、京都市内の図書館だと醍醐中央にありますね(表示されるかな)。
http://www.kyotocitylib.jp/cgi-bin/Swwwsvis.sh?0+1555+1+1+0+732750+0+1+0+0

not subject

kotaさん、こんにちは。
私も四季さんと同じく、kotaさんの紹介の言葉、オススメ上手にまいってしまう~。(*^。^*)
『シルトの岸辺』・・・是非是非読みたいです!
未読の本ばかりなので、一つずつ本屋さんや図書館探す楽しみも、頂いて嬉しいです。
遭魔が時、あやしい時間ですね。
名という字の由来、興味深く読ませていただきました。
夢の部首が夕であるというのも、素敵です。

not subject

overQ様
お久しぶりです。長寿企画になりましたね。
十代で夢の丘ですか。そして知ったのが荒俣ということは、荒俣も十代で。
多様な読書遍歴のようで興味深いです。
この小説、私の場合は、記憶の、ちょっと変わった場所に残ります。

四季様
こんばんは。コメントありがとうございます。
「暁の女王と精霊の王の物語」は、古いですよ。
角川文庫初版が昭和27年で、私の持っているリバイバルコレクションが四版です。
フィルムが古く、文字のかすれもあり、書体も古く、漢字も古いものです。
150ページで12章に分かれており短いので、さほど読みづらくありません。
むしろ雰囲気を盛り上げています。
青い花、読んでいただきありがとうございます。
読むたび「どんな趣味を持っていようと、行きつく先は鉱物」という誰かの言葉を思い出します。
28歳で亡くなったため未完が多く、手に取られにくいですが、ロマン派といえば青い花ですね。
刊行が始まったちくま文庫のノヴァーリス集成には詩が収録されないようで、残念です。
たぶん、シルトの岸辺も気に入ると思います。

not subject

kotaさん、こんにちは。
「暁の女王と精霊の王の物語」が読んでみたーい!
と思って調べてみたら、あらすじにはなにやら見覚えが…
もしかしたら、手に取ったことぐらいはありそうです。
でも本当に読んだのかどうかは謎…
角川文庫版は1952年刊行なんですね。
もしかしたらその古めかしさに圧倒されて書架に戻した可能性も?
そうだとしたら勿体ないですね。
これはぜひ探して読んでみたいと思います。
あと「シルトの岸辺」も読んでみたい。
kotaさん、紹介上手すぎます。(笑)

以前ドイツ文学の時に紹介されてた「青い花」、読みました。
素敵でした。
ほんと、独特の硬質な質感を持った作品ですね。
作中で語られているノヴァーリスの文芸観も面白かったです。

お久しぶりです。

kotaさん、お久しぶりです。毎度ご参加ありがとうございます。
思えばマッケン「夢の丘」は、10代のころから4回くらいも読んでいます。
自覚はなかったのですが、やっぱりもとからこの手のものが好きな体質のようです。
荒俣宏がこの作品を紹介してる文を読んで、読んだような記憶があります。
それがたぶん荒俣というヒトの文章を読んだ最初にちがいない。
読んでる時より、記憶の中でのほうが、重量が増す作品。何度か読み返したのは、その重みを追い払いたいような、確かめたいような気持ちからだったかなあ…と思いました。
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