american claveのSACD




【jazz】

キップ・ハンラハン。タンゴの革命家アストル・ピアソラをメジャーにしたプロデューサー、ニューヨークロフトジャズの大物、パーカッショニスト、レコードレーベルamerican clave主宰。アメリカン・クラーヴェのバックカタログがSACD化され始めた。これはうれしい。首を麒麟のように長くして待っていました。
SACD化は、アメリカン・クラーヴェ=キップ・ハンラハンと、日本のディストリビューターであるewe(←amarican clave 日本盤カタログページ)による共同プロジェクト。eweはSACDに積極的で、稼ぎ頭の綾戸智絵は多作にもかかわらず軒並みSACDハイブリッド。

■Kip Hanrahan/Coup de tete
キップ・ハンラハンのデビューアルバム。アート・リンゼイやビル・ラズウェルなどニューヨークのロフトシーンの重要人物を配し、マルグリット・デュラスの詩をカーラ・ブレイ(ジャズ史に困った感じで名を残す問題作「エスカレーター・オーバー・ザ・ヒル」の人)に唄わせたりと、ハンラハンの真骨頂である本物のリズム感を持つダブルトラップドラム以外にも聴きどころ満載。ジャズといっても4ビートでスイングするのではなく、よりネイティブなノリ。
以前、私にとってエンジニアリングといえばこの人のセイゲン・オノ氏によるリマスターが出て、音の向上に驚いた。それでアガリかと思っていたところにこのSACD化。今回も一からの作業で、オリジナルのアナログマスターを使用。音を良くするために飽くなき改善をする姿勢がすばらしい。で、やっぱりSACDは凄かった。パーカッションはタイトなのに減衰と余韻が自然な美しさで広がり、静寂までもが美しい。既に持っている人も買い替えて損しませんし、これから聴く人は幸福です。ジャケットは4色にシルバーを加えた5色印刷。

■Deep Rumba/A carm in the fire of dances
ディープ・ルンバのセカンドアルバム。ファーストよりもセカンドのほうが好きなので、このセレクトというかSACD化の順はうれしい。インナーには、コンガ、コンガ、ボンゴ、ドラム、ドラム、というリズム編成でのライブ風景の写真があります。日本人には到底無理なコンガのリズム。ディープ・ルンバは、形式的な枠に嵌り込んだサンバに見切りをつけ、ルンバの可能性を追求したグループ。これはもう絶対にSACDです。コンガの音色と響きの美しさ、自然さ、ぼんやり聞き流していると突然ぎょっとするほどのリアルさ。たまりません。とにかく気持ち良いです。ちょっとエスニックな感じの、パーカッションが本格的なものを聴いてみたい、と思っている人は迷わずこれを選んでください。ライナーは音楽評論家であり東京外語大講師の東琢磨氏で、私はこの人が嫌いではない。なぜかというと、何を言いたいのかさっぱり解らないからだ。ここまで解らなく書くのも個性である。一文を引用してみます。
アメリカン・クラーヴェが、ニューヨークのサウスブロンクスを拠点としながらも、その都市空間のなかの「南」の飛地(=enclave/en-claveというニューヨリカン表現によりこの「飛地」を「クラーヴェのなかで/によって発生していくものという再定義化をおこなったのはプエリトリカンの詩人タト・ラビエリである)をキャラバンしながら、不可視の複数のルーツroots/ルートroutesの交錯を見つけ出し、さらに齟齬や衝突をも含めての交流の場を作り出していく不断の装置であるとすれば、ディープ・サウス、ニューオリンズも最重要なアクターとなってくるのは至極当然のことでもある。」

文が長いことやスラッシュの多用などはまあいいとして、()と「」の位置関係が私には理解できない。斬新すぎる。私の打ち間違いではありません。ちなみに、読点の多い文、すなわち、一般的に、一文が長い文を書く人は、神経症の傾向があると言われています。また、蛇足ですが「?ですが」を一文中に複数入れる人も、私見ですが、何か変わっている気がするのですが、私が単に「ですが」恐怖症なだけかもしれないのですが。

■Milton Cardona/bembe
ミルトン・カルドナ。サンテリアの司祭。アルバムの副題は「ニューヨークにおけるサンテリアの十の神とリズムの録音集」ということで宗教音楽と言っていい。原始のリズムと歌声。音楽が、リズムと声と身体運動によって誕生したことを改めて知る。手拍子と歌というのもある。土着的なのだが、世俗的ではない。でもかっこいい。アメリカン・クラーヴェらしい。質感が絶妙で、スタジオレコーディングっぽくない。買い直して良かった。どんな打楽器を使っているのか、クレジットを読んでも判らない。ボンゴは判るけど、サンテリアはキューバで発展したのでジェンベもあるかもしれないし、ティンバレスのパイラのような音色もあるし、低い音が出ているのはコンガなのだろうか……。メルティングポットのニューヨークで作られたというのが興味深い。キップはこうしたリズムを見つけてくるのがほんとうにうまいと思う。解説は、CDのときもSACD化によって新しく書かれたものも東氏。読みごたえがあります。サンテリアについてはここが詳しい。

ケースはSACDによくあるタイプのものではなく、デジパック仕様。さらに函つき。完全に紫外線を遮断できる。函も型押しが施されている丁寧で上質なもの。これで3000円は安い。eweがリリースする日本盤は粗悪なCDばかりでがっかりしたものですが、大逆転です。

eweは早く「千夜一夜物語」もSACD化してください。日本での権利はeweではなく他にあるピアソラも何とかSACD化してほしいものです。でもキップが借金苦で版権を売ったという噂もあるので無理なんだろうな……。
関連記事