グロリア・ウィーラン『家なき鳥』



白水uブックスは海外の佳品を手頃な価格で読めるので好きです。サイズも文庫が苦手な私にはちょうど良い。カバーのマットな質感も良い。これはカフカコレクションを挟んで久しぶりの新刊。この前読んだのはスティーヴ・エリクソンだったかスティヴン・ミルハウザーだったか。
インドの貧しい家庭に生まれ、13歳のとき口減らしで嫁に出された主人公。これは何も珍しいことではなく、今でもインドではカースト制度のもと、家の都合で結婚が決まる。嫁ぎ先は単にお金がほしかっただけ。持参金は夫の難病を治すために遣われた。そして夫は1年も経たずに死ぬ。若き未亡人は義母に捨てられる。同じように、嫁ぎ先から捨てられた女性が暮らす「未亡人の街」に。それからいろいろあって、これから読む人はここから読んではいけないのだけれど、最後は刺繍で生計が立つようになるし、再婚も決まる。

日本なら「おしん」に代表される、これでもかというくらい情念的な部分を訴求するのだけれど『家なき鳥』は悲惨な小説ではなく対極の読後感。その理由は、主人公が明るいこと。何にでもひたむき。キルトが好き。無学だったけれど文字を覚える。ひたむきにタゴールの詩、帰る場所のない鳥を描いた「家なき鳥」を覚え、心の拠り所とする。単行本の図書館納入が多いのも納得。

新刊情報の中では、この紹介文が良い。金原ひとみの父親というイメージがついてしまってお気の毒な金原瑞人氏は「デヴィド・カッパーフィールド」との類似点を指摘している。となると、教養小説ともとれる。もう少し突っ込むと、欧米から見た「インド」という装置を利用した、いかにもアメリカ的でご都合主義な、自分自身の手による自己実現ともとれる。おかげさまで全米図書賞を受賞した。ちなみにこれは子ども向けの小説、ヤングアダルトである。いろいろ考えさせられる、これもまた質の高い小説。

子どもが主人公の小説だとスチュアート・デイヴィッド『ナルダが教えてくれたこと』が好きです。あれほど胸をしめつけられたことはない。
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コメント

lilla様
ヨーロッパの中編が多くてありがたいですね。最初はジャリやアルトーといった、昔の装幀のグレーのやつばかり読んでいたのですが、アントニオ・タブッキを知って一気に増えました。
都市部ではなくなっているのでしょうね。南アフリカやオーストラリアのように白人による法律というわけではなく、昔から根づいているものだけに地方では日常会話のような気がします。憶測です。
日本の70年代80年代の対応が分かりません……。

白水Uブックス

大好きです。欧州物が豊富。

>インドではカースト制度

比較的都会の出で日本にSEとして来ているような人々はかたくなに「そんなのは今はない!」と言い張ります。ただ「田舎ではあるでしょ」と言うと「うーん」という感じ。
ある意味70年代80年代の日本人が日本に対するイメージを欧米人に振られたときのかたくななまでの対応に似ているなあという気もします。
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