ディアパソンのスピーカー



音楽を聴くスピーカー選びは私にとって簡単です。まず、日本とアメリカを除外。次に、ヨーロッパのメーカーでも中国や東南アジアなどで生産しているものは除外。さらに、箱が木でできているもの。最後に、音色。私が美しいと考える音色で、なおかつ濃く、でありながら現実離れしているくらいに演出されすぎていないこと。締まっているけれど柔らかい響き。艶+透明感=潤い。細かい音も出る。ビル・エヴァンス「ワルツ・フォー・デビー」に入っている地下鉄の音が音程も精確に出るか。
で、行ったり来たり遠回りしながら逡巡したあとにたどり着いたのがディアパソン。イタリアのサウンドセンター社のスピーカーブランド。同じ名前のピアノメーカーとは無関係。見た目からもうすさまじいです。機器ではなく工芸品。かつてのソナスファベール(日本語で「音の工房」)もすごいですが、ディアパソンを見た後だとソナスは量産型のデザイン家具といった趣。ディアパソンには職人魂がみなぎっています。この違いは何かというと、100万円を超えるスピーカーでもMDFに突板(木を薄く薄くスライスしたもの。木目の家具は大抵これ)を貼って「木」な感じを出したものばかりのこのご時世、ディアパソンは無垢のウォールナットを組んでいるのです。木を切って乾燥するところから製作日数とすれば優に2年はかかっているでしょう。見るからに私好みの濃い美音を鳴らしてくれそうです。

木を組む寄せ木細工のような作り方で、何年経っても隙間ができないものに仕上げるのは相当なノウハウと技術がないとできません。当然量産はできないため、日本でディアパソンは無名。でも、そこがいいです。



私が使うDIAPASONはELLISEというシリーズのNUXというモデル。ギリシア神話で夜の女神。アンダーワールド“ボーン・スリッピー”のNUXヴァージョンですね。こういうのを日本でやると「スサノオ」や「天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇藝命」なんてスピーカーになるのか、それで別のメーカーから「天饒石国饒石天津彦彦火瓊瓊杵尊」が出て、それって同じじゃないかとクレームが出たりするのか、私たちがスサノオという名のスピーカーを何かおかしいと思うようにイタリアやギリシアの人はNUXという名のスピーカーを変だと思うのか、といったことに昔から興味あります。煙草でPEACEなんて欧米人にしてみれば何か裏のある冗談だと思うに違いありません。青くないのにバニラブルーというのもありました。宝石が入っていないのに宝石箱というアイスも……どうも私は話が脱線して長くなる悪癖があるようです。



ディアパソンに話を戻すと、候補に入れたときには既に遅し。日本の代理店(私が使っているアンプとCDプレーヤーと同じ会社)との契約が切れていました。となると、修理や保証を心配するかというと私の場合そうではなく、叩き売りが始まるので喜ばしい。でも試聴できる場所がどんどん減っていく。うららかな春の午後、三重県伊勢市にあるショップへ行きました。足湯につかりながら往復6時間、滞在1時間。

艶が尋常ではありません。音色の濃いスピーカーの代名詞ソナスファベールやウィーンアコースティックよりも濃密。ゲンズブールとバーキンが大変なことになっています。おまけに彫りが深い。イタリア人の顔のようです。温度感も絶妙。コントラバスが太い音なのはあたりまえなのだけれど、しかも濃い。私がいちばん好きなオーケストラ、シュターツカペレ・ドレスデンの芳醇な音色が広がって溶け合う。チェンバロやヴィオラ・ダ・ガンバの震えに私まで震え、民族音楽のパーカッションで快感が走った。これをうちのユニゾンリサーチにつなげたらと想像すると、勝手に財布を取りだしていた。

支払いをして付属の布に包んでもらって箱に入れてもらってクルマに積んでもらった。私はぼーっと立っていただけである。送料サービスとのことだったのだが、送料分も値引きしてくれなかくて逆に好感が持てる。まだいくつかのショップで展示品が残っていて(検索すれば出てきます)半額で叩き売られているようなので、興味ある方はよく聴くCDを持って訪れてみてください。濃い音色におののきます。レコード→真空管→ディアパソンで、エリック・ドルフィーのバスクラリネットが何かに取り憑かれていることを実感できます。

高音を担当するツイーターが平面であることが特徴。指で触れるとまずいので、グリルは金属で、工具がないと取り外すことができません。木は光の具合で表情が変わる。いつも同じだと思っていたら大間違いです。たとえば下の画像も、サイズを小さくしただけ。色やコントラストは変えていません。



背面からコードが何本も出ているのは美しくないし掃除も一手間増えます。ディアパソンの処理の仕方はうれしい。下の画像は、ひっくりかえした底面です。



上から見ると、こうなります。後ろが曲面なのは近年増えています。リュートですね。



同じイタリア生まれのユニゾンリサーチとの相性は抜群。というのも、ユニゾンリサーチ本社でモニターとして使われているのがディアパソンのスピーカーなのです。濃密な艶と濃密な艶、ともすれば喧嘩したりくどいくらいになりそうなので避けがちな組み合わせ。しかし、すばらしいの一言です。これ以上の艶を求めることはほぼ不可能。15年くらいはこれでいきたいのですが、どうなることやら。

私が座ったり寝ころんだりしているソファ越しに。左のスピーカーが傾いているように見えますが、そう写っているだけで水準器でも水平です。床が傾いているというのも、たぶんないです。



穴が前に空いているフロントバスレフなので、後ろの壁との距離に影響を受けにくい。なのでセッティングが楽。後ろは1メートル、右は65センチ。スピーカーの間は175センチ。ソファ前端までの距離は285センチ。本気で音楽と対峙するときは正三角形の位置もしくは直角三角形の位置に椅子を置いて聴きます。それが、音楽を生み出した人への最低限のマナーだと思っています。



スピーカーの間には何も置かないのがベスト。オーディオを置いている板は、厚さ6センチ、幅210センチ、奥行45センチのケヤキの板。間にコルクを挟んで、四寸柱の端材を寝かせて脚がわりにしています。

調べていたときに見つけたアメリカ人のレビューが笑えます。「イタリアは理解できない。作るものも。何から何までいちいちstyleとeleganceがある。フェラーリがフォードトーラスのような形になったことはない、イタリア女性がポリエステルの服を着たのを見たことがない、このスピーカーもゴージャスな厚化粧、無垢木を使ってるんだぜヘイブラザー呆れちまうよ。アルミでいいのにな、だろ?」だそうで、その通り。曲線を多用し、芯まで木でできた、美しくそびえる姿。原始的でもありモダンでもあり、部屋の雰囲気を損ないません。私の部屋はハードロックカフェでもブルーノートでもない。


DIAPASON本国公式サイト



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ユニゾンリサーチのオーディオ
ヒヤシンスのソファ

ちなみにソファはヒヤシンスの本体にマットがただ置かれているだけのものなので、カトリーヌ・メミのベッドリネンを使っています。ある程度の質以上のものは、使えば使うほど柔らかな肌触りになる。もう15年使っています。高いけれど、安い。ベッドリネンという言葉からも解るとおり、本来シーツといえば麻。夏の素材と思われがちだけれど、冬はあったかい。私は雪で名高い北陸に住んでいるのですが、真冬でも毛布を使いません。
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コメント

その部屋でルーサーヴァンドロスのスローを聴いてみたいですね~


はじめまして!宝塚在住のララです。
最近、SK-1200MK5を入手しまして、デザインが合うアンプを探していたらここにたどり着きました。 とても雰囲気があって気に入りました。
いまはUNICO Primoになりましたが、デザイン変えてないので、なんとか手に入れようと思います。

とっ、書いたところで『ズリィィィ・・・』という嫌な音が、、、、サムシングエルスの盤の上を風に煽られたシュァーがぁぁぁぁ、、、、


今日はここまで失礼します!!

kabakun様
コメントありがとうございます。
試聴もせずに購入されるとは漢といいますか、
責任を感じるといいますか。
でも濃い音色が好きならかなりお得だと思います。
ツイーターが独特なので、
鳴らしこんでいるうちに高域が伸びてきました。
また、あくまでも私の部屋においてなのですが、
付属のスパイクは使わないほうが良いです。

買ってしまいました

はじめまして。
ソナスファベールで検索していたら、このdiapasonのスピーカーにブチあたりました。「なに、ソナスより濃い音がするだと!」と言う事で、(ポリシーには反するのですが)試聴もする事無く勢い余ってNuxを購入するに至ってしまいました。
まだ、エージングも何も繋いだばかりですが、確かに柔らかく深い音がしています。また、聞き込んでみたいと思っています。

youkan様
こんにちは。
ソナスも好きです。特に昔のもの。
エレクタ・アマトゥール、ミニマ、ガルネリ・オマージュ。
しかし、ディアパソンを聴くと、
ソナスが明るく開放的で乾いた感じに思えます。
あくまでも私の印象ですが、濃い順は
ディアパソン>ジンガリ>オペラ>ソナス
です。これを購入するとき、
ソナスのグランドピアノドムスと比較試聴しました。
現在のソナスは廉価モデルを台湾で生産していて、
外観はリュート型なのに中は台形だったりします。
聴きにいらっしゃるのは構いませんが、
たぶん「うわ、しょぼっ!」と思うこと間違いなしですよ。
ぜんぶ合わせてもyoukan様のスピーカー代にもなりませぬ。

いいですね。

DIAPASONですか、名前は存じ上げてましたが音は聞いたこトがありません。本文中にあります「ソナスファーベル」はよくシっているつもりです。ソれよりも濃密ですか。
ゼヒとも一度お聞きしたいものですね。
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