音とリズムの文学散歩

お題に沿った本を挙げるトラックバック企画の43回めに参加します。
今回は「音とリズムの文学散歩」とのことで、詳しくはpicoさんのページを。
なんだかランキングもあって楽しそうです。

文芸と音楽は一緒だったし、日本でも和歌は文芸と音楽の融合だった。
これは切り離せないな、久しぶりに参加してみようか、と思った次第。
で、あまり私は固有名詞を多用する小説が好きでないことに気づいた。どういう音楽を聴いているのかだけで登場人物の人物描写やキャラ設定をするのは安易だからだ。なんてけちつけてもしょうがないので、とっととランキングを兼ねて紹介。
(映画のように下から上にスクロールできればいいのに!)

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■5位
書籍:小島信夫「X氏との対話」
音楽:ベートーヴェン ピアノソナタ第14番「月光」
小説かどうか疑わしいのだけれど、小島信夫の場合は小説ですら小説かどうか疑わしいし、この本の帯には「芸術論、文明論でありながら小説としても読める類例のない作品」とあるので小説ということにして挙げる。小島信夫の小説によく登場するX氏との、山荘でのやりとり。絵画、陶磁器、彫刻、版画、書、建築、音楽、現代美術、そしてちょっとだけ漆器。盛りだくさんなのに小島信夫なので難しくならずにのらりくらりとしながらも本質を抉る。ベートーヴェンの月光は、巻末に図版も載っていて、バイルレって芸術家の「ベートーベン・月光の譜」という現代美術の題材にされている。おかげで私はこの曲を聴くと、こいつを思い浮かべてしまうようになった。CDはルービンシュタイン

■4位
書籍:笠井潔「バイバイ、エンジェル」
音楽:ザ・ローリング・ストーンズ「悪魔を憐れむ歌」
この曲に関してはジャン=リュック・ゴダールの映画「ワン・プラス・ワン」が最初で、そこにいるのに誰からも相手にされなくなってしまった初期のリーダーであるブライアン・ジョーンズに涙した。とても好きな曲で、とにかくリズムがかっこいい。トムクルーズ主演の映画で主題歌になったような記憶もある。で「バイバイ、エンジェル」の主人公矢吹カケルは、この曲をパリの橋の上で口笛で吹いていたりしてかっこ良すぎて笑ってしまう。さて音楽。ストーンズのキャリアは馬鹿みたいに長い。ボールを斜め上に放り投げる。ボールは放物線を描く。いちばん上に行く寸前、ボールは上へ向かう速度を落として角度を変える。そんな頃にリリースされたアルバム“ Beggars banquet”に収録。私が持っているのはおとなしいジャケット。現在のCDジャケットは、メンバーの意向が反映されたものに替わっている。

■3位
書籍:「日々の泡」
音楽:デューク・エリントンの音楽
まえがきを引用する。
ただ二つのものだけがある。どんな流儀でもいいが恋愛というもの、かわいい少女たちとの恋愛、それとニューオリンズの、つまりデューク・エリントンの音楽。ほかのものは消え失せたっていい、醜いんだから。
そこまで言い切ってしまうヴィアンにほれた。本人も音楽やってたというのに。CDは、晩年のベスト的な“Hi-Fi Ellington uptown”で、ビッグバンドを聴かない私もよく聴く。楽しい。ヴィアンが書いた意味を知ると、楽しいがゆえに哀しいのだけれど。

■2位
書籍:倉橋由美子「交歓」
音楽:ジョン・ケージのプリペアド・ピアノ
倉橋由美子の小説群には、同じ登場人物による、続いていないけれど「桂子さんシリーズ」と呼ばれるものがある。大衆とは完璧に隔絶したハイクラスで優雅な暮らしっぷりばかりの登場人物がいろいろ繰り広げる。フランス語に堪能だったりヴァイオリンを弾けたり、ここまでいけばカタログ小説嫌いの私でも楽しい。「交歓」は、冒頭にジョン・ケージの話題。これひとつでこの小説のポジションが決まる。小説家がお金を持つようになってハイライフを体験しても、成金まがいの小説しか書けない。でも、倉橋由美子は客体視できる人なのでそんな俗な小説など書かない。プリペアドピアノというのはジョン・ケージが考え出したもので、どんなものか知りたくなったら適当に検索してください。おもしろい音色と響きです。このCDはECMからリリースされた“The Seasons”というメイン曲がタイトルになっているもので「プリペアド・ピアノと室内管弦楽のための協奏曲」(1950-1951)が収録されている。

■1位
書籍:小栗虫太郎「黒死館殺人事件」
音楽:ストラヴィンスキー
日本三大探偵小説だか探偵小説三大奇書のひとつで、戦地に向かうときに聖書でも仏典でもなくこれを携えたやつがいたというエピソードでも有名な一冊。確かにこれにはすべてが入っている。京極夏彦の全著作と「薔薇の名前」を足しても遙か及ばぬ博覧強記と教養の連射。音楽、楽器、絵画、文芸、彫刻、建築、羅針盤、天文学、占星術、人形、甲冑、宗教、化学、医学、色彩学、フリーメイスン、ほかにもあれこれ詰まっている。とにかく登場人物の話している内容が濃くて専門的すぎて、おまけに事件解決の推理をそんなことでやっているものだから流し読むわけにもいかず、初読のときには笑って投げ出してしまった。

で、ストラヴィンスキーはどういう扱いかというと、作中で「ペトルーシュカ」に言及していて、そんなの怖くて聴けないよと読んだら思ってしまった私は、それでもストラヴィンスキーを聴きたくて、三大バレエ曲のもうひとつ「春の祭典」を聴くようになった。でもそっちのほうがクラシックではなく現代音楽だった。1913年にパリで初演されたとき、観客は大騒ぎしたそうな。とはいってもロックを聴いて育った私には楽しめるので今でも大好きだ。これもリズムが良い。転調はもちろん変拍子もあたりまえ。予想できない展開。圧倒的なクライマックス。アルバムはコリン・デイヴィス指揮でアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団による定評ある盤。CDは「ペトルーシュカ」も収録されて1000円と超お得。いますぐレジへ走ってください。


そんなわけで、クラシックと現代音楽とジャズとロックがうまく入って自己満足なランキングでした。小説自体が音楽と化してるのもあるのですが、説明するのがめんどくさくなりました。それではこれにてドロン(←古すぎてむしろ新しいような気がして最近多用しています)。




音楽といえば古楽のレーベルとして演奏も録音も最高の賛辞を獲得しているレーベル、ドイツ・ハルモニア・ムンディが、50周年を記念して50枚組BOXをリリースする。完全限定。ハルモニア・ムンディ・フランスは30枚組で5000円だったが、こっちは驚愕の50枚で5,348円。何と1枚100……ちょっと円。レオンハルトによるチェンバロのゴールドベルク、クイケン兄弟による音楽の捧げ物、ビルスマによるボッケリーニ。この3枚だけでこの価格よりも価値があります。他にも絶品ぞろい。というかほとんど絶品しかありません。私は幸い重複が6枚しかないので迷わず予約しました。3万円だって買いです。私の漆器を買うよりも、いますぐこっちを予約してください。
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コメント

七生子様
こんばんは、コメントありがとうございます。
矢吹カケルを忘れるなんて、現象学的興味がわいてきます。
映画はインタビュー・ウィズ・バンパイアでした!
公開前日のオールナイトで観たのも思い出しました。
ガンズのカバーはかっこいいですね。
アクセルは毎年アルバムを出す出す詐欺ですが……。

七生子です、こんにちは。
kotaさんがご紹介されている本も音楽も知らないものが多く、
読んでみたい本&聴いてみたい曲リストが増えました。
ショックだったのはkotaさんの記事を読むまで、「バイバイ、エンジェル」での矢吹駈のことを忘れていたこと(涙)。
トム・クルーズ主演の吸血鬼映画の主題歌は、ガンズがカバーしたバージョンの「悪魔を憐れむ歌」ですね。こちらのCDを持ってます(汗)。

kyokyom様

こんばんは、コメントありがとうございます。

抱擁家族は戦後文学の名作という扱いになっているので、ネットで検索すれば書評や感想がたくさん出てきます。それらのいくつかを読むと、どこまで読み込んでいるのかとかどこまで突っ込んでいるのかといった程度のこととは別に「なるほどー、そういうことか」と感じるものと「ええー、そうじゃないだろ」と感じるものがあるはずです。みんながみんな同じ感想なんてありえないですからね。

で、うまく言葉にできなくても、頭の中がすっきりしていなくても、他の人が書いた書評や感想に対して何らかの反応が自分の中にあったなら、それが自分のとらえ方、になると思うんです。

何を書いているのか、ということなら江藤淳を筆頭に散々批評されています。そのために戦後文学の名作になってしまっています。一般的には、それが「正統な解釈」とされています(江藤淳「成熟と喪失」は、抱擁家族の解説のような本です)。でも小島信夫のおもしろさ、つかみどころのなさ、まじめに読もうとすると脳の活動が脱臼を起こしてしまうような感触、といったのは「どう書くか」によると思うので、それとは別の話です。

私の場合は、悲惨な話なのにノラリクラリしたムードをただ楽しんでいます。
こんな変な書き方するの小島信夫しかいなかったですから。

杳子を読まれたんですね、私が言うのも何ですが、ありがとうございます。
くらくらしますね、古井由吉。言葉ってすごいなあと思います。

ジョナサン・カラー「文学理論」を読まれた次は、
イーグルトン「文学とは何か」が良いと思います。

ふだんはブログでリリース予定や刊行予定は書かないですし、それに特化したブログがあるのでそっち観たほうが便利なのですが、ハルモニア・ムンディのボックスだけは前もってお知らせしなければと思いました。50周年記念の限定で、レギュラー商品ではないですから。

遅くなりました

kotaさん、こんにちは!
ああ、小島信夫。。
僕は抱擁家族しか読んでいないのですが、あの小説のどこをどう捕えていいのか、何に注意して読めばいいのかわけがわからず途方にくれました。しかし不思議と今でも印象に残っていて、それでも作品を読むとなったらどういう態度を取ればいいのかあいかわらずわからないので、ただそのまま読むしかないのかなあという気にさせられました。

あ、そういえばこれはkotaさんの影響ですが、杳子・妻隠を読みました。谷底の場面でぐるんぐるんとめまいが起きるような感覚が今でも鮮烈に記憶に残っています。ああいう圧倒的な体験って人の意欲をかきたてることもあるし、同時に人をダメにしてしまうこともあるのじゃないか?などと思ってしまいました。

あまり記事に関係のあることが書けなくてすみませんでした。
それにしても古楽の50枚組BOXの話には思わず飛び上がりそうになるほど興奮してしまいました。
いつも参考にさせて頂いています。

i様
リンク先まで観ていただきありがとうございます。
小島信夫は大好きですが、異常だと思います。
もっと安くして流動的にしたほうがほうがいいような……。


ワルツ様
おはようございます。ワルツさんと一緒で何だかうれしいです。
CDは安すぎて何かおかしいとさえ少し思っています。私がいちばん好きなベートヴェンの交響曲第九番は、ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデンのゼンパーオーパー再建記念ライブ(1985年)なのですが、このCDはHMVで425円でした。これではただのデータと印刷と物流の値段です。
私、仕事でよくおがくずで埋まった職人の仕事場にお邪魔します。おがくずが動いて人形の形になったりしたらこわいなあとか思いながら仕事の話をしています。
小栗虫太郎、雰囲気はいかにも「探偵小説」という趣ですが、ワルツさん絶対好きなはずです。他にも音楽はいろいろ出てきますよ。時折専門的になって私は何のことやらさっぱり解りませんでした。京極夏彦のように解説してくれるのではなく、読者をほったらかしにして登場人物だけでペダントリーがすごいことになっていく感じというか、初めからある程度の知識を持っていることが前提というか。説明すると長くなるので仕方ないですし、雰囲気もぶち壊しなので、これはこれでいいかなと思います。いまは分からない単語があればネットで検索すればいいだけですからね。
画像、おほめいただきうれしいです。世間様にお見せできるのは物撮りだけ、風景写真や人物はものすごく下手です。

kotaさん、こんばんは。
写真の「春の祭典」デイヴィス指揮、アムステルダム・コンセルトヘボウのレコード持ってます。
「あっkotaさんと一緒♪」って思ったら、ナント、CD1000円ですか。その上「ペトルーシュカ」まで収録されて・・・
ショック受けてます・・(笑)
人形が登場するバレエは多く、「ペトルーシュカ」もですが、確かにロシア的で親しみやすい音楽になってますね。でも、殺されたり幽霊が出たりとか可哀想。
小栗虫太郎「黒死館殺人事件」は、すごい小説らしいと敷居が高く思っていましたが、kotaさんの紹介を読ませてもらって益々・・・
でも、「ペトルーシュカ」が気になるし、いつか頑張って読んでみたいです。

いつも思うのですが、kotaさんの写真、ものすごく素敵なんですけど。今回のも、本とCDの写真にぼーーっとしてしまいました。(美しくて)

小島信夫と倉橋由美子の古本価格差www

pico様
だらだら駄文を隅々まで読んでいただき恐縮です。
ラインナップがお気に召したようでうれしいです。
ベジャールとは、さすが。春の祭典はDVDなのでしょうか。
私は彼(絡み)のDVDは「愛と哀しみのボレロ」だけです……。
パリ左岸、こちらこそありがとうございました。
5348円は、確かに私のブラウザだとそう見えるのですが、
あまりの安さで不安になります。
HMVの価格はマルチバイ適用価格で、タワーだと単品で5390円です。

きゃっ。桂子さんだ。ジョン・ケージだ。嬉しいな~。
ペトルーシュカ、春の祭典は、ベジャールヴァージョンをパワーローテしてます。黒死館殺人事件は読んだはずなのにすっかり失念。
主催をしながらもうっかりしすぎたエントリーで、皆さんのところを周りながら、あたふたあわあわしてます。
何より、kotaさんが参加くださったのが嬉しくて、kotaさんの記事、何度も何度も読んでしまいます。(理解してるかどうかは怪しいですが…ドロン・・・)
いや、明日にでも、お誘いにこようかと思っていたところです。
本当にありがとうございます。
そして、ついでですみません。パリ左岸の記事もたいへん楽しく拝見しました。ありがとうございました。

50枚で5348円ですね。買います!謝々


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