食器に使われている接着剤

メールで弁当箱の相談をいただいた。
持ち運びしやすい小判型をお探しのようだった。山中は、ろくろで挽く。なので真ん丸のものしか作ることができない。小判型はルーターを使う。ルーターを使う自称職人も、山中にはいる。でもなるべくならルーターで作るものは売りたくない。時間がかかり、無味乾燥で、粗く、変形しやすい横木を使うし、データ作成コストがかかるので高い。それでもかまわないのであれば、半年くらいでお作りします、といったことをそのままお伝えした。お応えできないのは何なので、解決案もつけた。1月末か2月末だったので、お子さまの入園か入学に合わせて探しているのだろうと思ったし、私自身も市販の曲げわっぱの弁当箱に漆を塗ったものを使っている。何としても自分のものを買わせることなどしない。

話は逸れるが、漆器の世界の澱みきった商慣習をひとつ。私のような「漆器屋」は、自分のところに取引先や個人客が希望する商品がなかったら、同業者から仕入れ、それを自分のところのものとして卸したり売ることが日常茶飯事だ。これは山中だけの話ではなく、輪島も会津もすべて同じ。輪島の某ショップに並ぶ箸は、山中の漆器屋が中国から仕入れたものだ。それを輪島塗であるかのようなイメージをつけて販売している。輪島で作ったら箸一膳を1260円で売れるわけなどない。また、山中漆器全体の「カタログ」なんていう摩訶不思議なものがあって、稼ぐところはそれだけで年間数千万円、つまり私の売上よりも多い。そのカタログには、それぞれの漆器の製造者が記載されていない。なぜなら、直接取引されたら困る、カタログを持って行った俺の客だ、というわけだ。生活者のことなど何も考えていない。おまけにそのカタログに載せたものは、1年経ったら真似して作ってもいいという暗黙の了解まである。そんなこんなで私はカタログに商品を出していない。ねたとして仲の良い取引先に渡すくらいで、仕入れたこともない。質の高低はともかく、責任の所在を明確にするのは、ものづくりの姿勢だとか職人魂とか言う以前に、何かを売ってお金をもらうなら大前提だか最低限だかの話だ。

話を戻すと、その提案に乗ってくださった。私は、無垢の弁当箱を購入して漆を塗って自分で使っている曲げわっぱの小判型をおすすめした。国産の木を使っているし、薬品につけられていないし、エッジの処理など仕事は非常に丁寧で、簡素ながら美しい。それなら、市販の価格に拭漆を施す実費を追加するだけでいい。お子さまにはアレルギーがあるらしく、化学ものは駄目だそうだ。なので私のところへ問い合わせてきていただいたようだ。私は単純な人間なので、そんなこと言われるとうれしくなる。

画像を観ることができるリンクを貼り、ご検討くださいとメールをお送りした。しばらく経って電話をいただいた。弁当箱に使っている接着剤は何ですか、とのこと。私は、私が作っているものに関しては、すべての素材と、素材の原産地を即答できる。でも他人が作ったものは判らない。そして、正直言えば曲げわっぱの接着剤など気にしたことがなかった。

私はショップに電話をして事情を話し、
曲げわっぱの職人に聞いてもらうようお願いした。

また話は逸れるが、そういう電話は私自身しばしばいただく。下地には何を使っていますか、漆は漆100%ですか、漆も国産ですか、石油は使っていますか、などなど。私は正直に答える。明らかに同業者の探りと判っていても。それはともかく、作り手や売り手が「木と漆だけでできた漆器」と謳っているものに石油が使われていることを、購入される方も知っているのだ。

再び話を戻すと、すぐに返事をいただいた。建築や家具ではポピュラーな接着剤のようだった。私は仕事で接着剤を使わない。細かいことは解らない。板と板を貼り合わせるときは漆と土の粉末と石の粉末を練り合わせてつける。がっちがちだ。まあそれもともかくとして、どれでアレルギーが出て、どれで出ないのか判らないので、メーカー名と品名をそのままお伝えした。

しばらくして、メールをいただいた。
やっぱりその接着剤は、駄目なようだ。

結局、その方が既にお持ちの無垢木の弁当箱に漆を塗るということになった。何も買わずに塗るだけなので恐縮されているようだった。でも、恐縮することなんてない。選ぶのはお客だし、それが顧客主義だ。効率性を追求するのは「お客様第一主義」でも「すべてはお客さまのために」でも何でもない。「いやいやいや、だいじょうぶですよ安心してください、上から漆を塗るんですし、何かあったら曲げわっぱのメーカーを訴えればいいと思いますよ、今回は特別にまけときますよ」なんていうのは客のことなど全く考えておらず、自分のことしか考えていない。それに私にしてみれば接着剤についての知識が増えたのだから、ありがたい。

素材を全部表示する法規でもできてくれないかと、本気で思う。
漆器の世界の住人に言わせると、
中国産を中国産と表示するだけで、大した進歩なのだそうだ。

すべての人に害のない小判型の弁当箱は、どこにあるのだろう。
組み立て前の材料さえ手に入れば、接着は漆の錆地でできるのに。
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コメント

ねーたん様

漆の錆地で直すのは私も承っております。
金額は、ものを拝見してみないと何とも申し上げようがない、
というのが正直なところでございます。

たとえば、まっぷたつに割れてしまったなら、
錆地で接着するだけではなく更に補強する必要があるかもしれません。
たぶん問題ないとは思いますが。
陶磁器の金継ぎは、補修した箇所の錆地を隠すために金箔を貼ります。
これは補強ではなく見た目の問題ですね。

錆地で直す場合は、錆地が「はみ出る」ため、
見た目が変わることを前もって知っておいたほうがよろしいかと思います。
もちろん、軽い補修なら、はみ出ない程度で済む場合もあります。

安全な接着剤につきましては、木工家具作家さんなどにも尋ねてみたのですが、
どうやら市販されていないようです。
米糊などでは接着力が不足すると思いますし……。
医療用接着剤なら、ケミカルではありますが完全に無害だと思いますよ。
それを少量だけ廉価に購入できるところとなると、
ごめんなさい、私には判りませんです。

過去のスレッドに書き込みしてすみません。

木の弁当箱が割れてしまい、どこかで修理ができないかと探しています。

漆のさびで修復ができるのであれば、どこかにお願いしたいと思うのですが、やってくださるような方を御存知でしたら、連絡先を紹介していただけませんか?料金もどれほどかかるのか知りたいのです。(漆のお弁当箱は高いので)

もしくは安心な接着剤を使って自宅で治すということはできないものでしょうか?

よろしくお願いします。

No title

コミネ様
コメントいただいていることに気づくのが遅くなり申し訳ないです。
接着剤を使っていない曲げわっぱは、福島県檜枝岐村で作られています。
(大館で探すのは難しいと思います)
どこで購入可能かは、こちらのページをご参照ください。
http://www.oze-info.jp/mottkou/index.html
接着剤を使っていない曲げわっぱを探していて、と伝えればオッケーだと思います。
サイトを持っている作り手なんていませんので、見つけにくいです。
(利益率や生産性を優先した「商売」ではありませんので)
有名な作り手のひとりに星寛さんがいます。
電話番号をネットで見つけることができますので検索してみてください。

おそらく、価格の安さにびっくりすると思います。
流通マージンがないからです。
私たちがふだん目にするものは、作る「企業」の規模によって決められています。

これからの季節、檜枝岐に行かれたら、是非蕎麦を食べてみてください。
(平地がないため田んぼがゼロの土地です)
素麺を食べるときのように、水に浸されただけの蕎麦が出てきます。
何もつけず、それでじゅうぶん美味しいです。
いかにも田舎蕎麦という野趣あふれる強い風味ではなく、
中心部だけを挽いた更科系で、非常に上品な味わいで感動しました。

教えて頂けないでしょうか?

初めまして。接着剤を使わない曲げわっぱを探しておりまして、こちらに行き着きました。
すみませんが、どちらで購入可能かお教え頂けないでしょうか?
どうぞ宜しくお願いいたします。

※接着剤を使わずに作る曲げわっぱは、既にお客さまから教えていただいております。

松生 順 様
はじめまして。丁寧なコメントありがとうございます。
文章が稚拙なために誤解を与えてしまったようで、
私が探していたのは、接着剤を使っていない曲げわっぱなんです。
角物/指物/箱物と呼ばれる漆器については、
既に依頼している職人が(気軽に行き来できる距離に)います。

山口工芸さんのことは存じ上げております。
確かOZONEでのイベントで隣同士になったことがあります。

ごくあたりまえの、まっとうなものがほしいだけなのに、
そういうものほどなかなかないですね。
数値化できない技術が廃れていくのはほんとうにつらいです。

漆で接着してくれる木地屋さんを知ってます。

はじめまして、わたくし九州は福岡で、漆器制作をしているものです。私どもの漆器も、溶剤を使わない漆塗りをしております。そうすると、角物の場合、接着剤の問題があり、造ることが出来ませんでした。
しかし今、お世話になっている角物木地屋さんは、漆で接着してくれます。もちろん、木も、どこ産なのか、教えてくれます。(うちは北海道産桂を使用)おかげで安心してお客様に、造ることが出来ます。連絡先は以下の通り。
有限会社 山口工芸
福井県鯖江市西袋町206-2
Tel0778-65-3112
それでは、失礼しました。
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