■鬢付け

漆を塗るときは、下地が施されたものを手で持つわけにはいきません。
何と言ってもそれに塗るのですから。
では、どうやって塗っているのでしょう。
先に吹きつけのことを簡単に説明しておきますと、細長い板に器を並べ、それを大きな台の上に並べ、スプレーガンで一気に吹きつけます。で、板ごと乾かす場所に移します。翌日、ひっくり返して同じように吹きつけます。非常に効率的でございます。吹きつけの話おわり。

というわけで、塗師は「つく」というものをつけ、つくを持ち、塗ります。つくというのは円柱形で、塗るものによって多少大きさにバリエーションがあります。語源は調べたことがないのですが……たぶん「くっつく」だと思います。


これは、うちの倉庫にある、といっても建物全体が倉庫のようなものなのですが、それはともかく、使わなくなった職人からもらった、つく。使わなくなったら職人はどうするのかというと、後述します。

つくを持って、もう片方の手で刷毛を持つ。
指でつくをくるくる回し、刷毛をあてて器を塗る。
円いものが多い山中漆器ならではですね。

で、塗るものと「つく」を何でくっつけるか。
かつては鬢付けでくっつけていました。
鬢付けといっても日本髪の鬢付け油ではなく、もっと固形です。

では、鬢付けの材料は何なのか。漆です。
漆の実から脂肪分を抽出し、固めたものなのです。
身の回りにあったものを使ったのでしょうね。

しかし今は「ホットびんつけ」なるすばらしいものがあります。
素材はプラスチック。
それを電熱器やアイロンなどに当て、熱で柔らかくします。
そこに漆器をくっつけるわけです。
嬉々とそのことを解説する「職人」までいる有様。終わってます。

鬢付けとホットびんつけの違いは、
鬢付けは粘着力が弱いのですが、衝撃に強い。
ホットびんつけは粘着力は高いけれども、衝撃に弱い。
つまり、円を描かなきゃいけないので中心につける必要があり、
その微調整ができるのは鬢付けで、
肘がどこかに当たったりくしゃみをしても取れないのが鬢付けなのです。

しかし、今では鬢付けを使って塗ることのできる職人はほとんどいません。
ほんものにせもの言うつもりはありませんが、
ホットびんつけだかプラスチックだか知らないけれど、
どうせにせものなんだから、くるくる回る機械でも買って、
それに漆器を固定して、刷毛を当てて塗ればいいんじゃないかと思っちゃいます。
と思ったら、そんな塗師もいました。
早くて、ということは安くて、人気の「職人」です。

私が塗ってもらっている職人は、鬢付けを今でも使っています。
山中でも、職人ではこの人だけになってしまいました。
この人の仕事場は二畳しかありません。


左から、鬢付け、鬢付けをつけたつく、つく。
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