■ベイズの定理

突然ですが問題です。司会進行は不肖私。
三つの箱ABCがあります。
ひとつには賞金100万円が入っています。
残りのふたつには何もはいっていません。すかです。
まず最初に、どれかひとつの箱を選んでください。
ちなみに私はどれが当たりか知っています。

あなたは箱Bを選んだとします。

そこで、私はB以外のうち、たとえば箱Aのふたを開けます。
何も入っていません。

最終決断です。
あなたは、箱Bのままにしておきますか?
それとも箱Cに変更しますか?
当たりの確率が高いのはどっちでしょうか?
空の箱がひとつ分かった、
確率3分の1が2分の1になったよね、
変えなくてもいい、っていうかどっち選んでも同じじゃね?
じゃあ最初の直感信じるから変えないわ、いくぜ! こい!
とかなんとかいうのが大方の回答です。

果たしてそうでしょうか。
これは確率論の問題です。

最初の選択肢、3つからひとつ選ぶ。たとえばBの箱を。
これは他に条件がないので確率は3分の1です。
で、私がAを開けて中が空であることを見せます。
しかし、Bが当たりである確率は変わらず3分の1なのです。
では、残りの3分の2はどこへいったのでしょう。
開けなかった箱Cが当たりである確率が3分の2になったのです。

なので「箱を変更する」が正解です。

詳しく見てみましょう。
最初の状態における私の選択肢は次の通りです。
・Aが当たりだから、Bを開けよう。
・Aが当たりだから、Cを開けよう。
・Bが当たりだから、Aを開けよう。
・Bが当たりだから、Cを開けよう。
・Cが当たりだから、Aを開けよう。
・Cが当たりだから、Bを開けよう。

で、Bを選んだのでBを開けることはありません。
というわけで、実際にはこうなります。

・Aが当たりだから、Bを開けよう。→Cを開けよう。
・Aが当たりだから、Cを開けよう。
・Bが当たりだから、Aを開けよう。
・Bが当たりだから、Cを開けよう。
・Cが当たりだから、Aを開けよう。
・Cが当たりだから、Bを開けよう。→Aを開けよう。

Aが当たりの場合は必ずCが開けられる。
Cが当たりの場合は必ずAが開けられる。
そりゃそうだ。

そして、実際にはAが開けられました。
上のうち「Cを開けよう」が消えます。

・Bが当たりだから、Aを開けよう。
・Cが当たりだから、Aを開けよう。
・Cが当たりだから、Bを開けよう。→Aを開けよう。

Bが当たりなのは3つのうちひとつ。
Cが当たりなのは3つのうちふたつ。

Q.E.D.


これはモンティ・ホール氏が司会者の“Let's Make A Deal”というテレビ番組で実際に行われていたものです。たいていの人は変えても変えなくても同じだと思っているからゲームが成り立っています。しかし司会者というか番組は、確率論を知っていたに違いありません。なぜなら、変えて外れたら後悔するけれど、変えずに外れても納得できる、それが人間心理であり、そこを突いています。心理戦ではなく算数の問題です。心理を分かっていて算数を使っている側と、ただの心理戦で臨む者とでは、勝負の確率は平等ではありません。確率が上がって当たりやすいものと見せかけ、はずれの箱を開けて見せ(テレビ番組なので盛り上がるためもあるでしょう。はずれの箱なのですから)、実は確率は変わっていないし、むしろ確率の低いほうを「自分の意志で」選ぶように仕向けているわけです。

で、とある視聴者がとある女性コラムニストに相談し、女性コラムニストが「変更したほうがお得です」なんてコラムに書いちゃったもんだから「間違いだ!」という指摘だか批判だかが殺到しました。全米が抗議した、って感じです。中には大学の数学教授も複数いました。嘘を教るとはけしからん、とかなんとか。稀代の天才数学者、ポール・エルデシュも2分の1と主張しちゃいました。そんなこんなのてんやわんやでクローズアップされました。現在、確率論や論理学やゲーム理論では「モンティ・ホール問題」と呼ばれています。でも実は非常に初歩的な算数なのです。たす、ひく、かける、わる、それだけできれば解けます。三択なのでまだそれで良いですが、日常生活はもっと複雑です。なので洗練された理論を使うほうが効率的ですし思考がエレガントになります。


同じ問題で「3囚人問題」というのもあります。
あなたは囚人Aです。他に囚人Bと囚人Cがいます。3人のうちふたりは死刑、ひとりは特赦されることになった。この時点では、自分が特赦される確率は3分の1だ。自分は死刑になるのか、特赦されるのか。気になる。超気になる。気になるあなたは看守に尋ねた。「ふたり死刑になるなら、少なくとも私以外の誰かひとりは死刑なんですよね。誰にも言いませんからBなのかCなのかひとり教えてください」と。機嫌の良い看守は口をすべらせる。「Bだよ」と。さて、あなたが特赦される確率は3分の1から2分の1に上がっただろうか。ほっとしている場合だろうか。

これも場合分けして見てみればすぐに判る。
Bが死刑になることは確定なので、選択肢は次のようになる。

・Aが特赦されるので、Bと答えよう。
・Aが特赦されるので、Cと答えよう。
・Cが特赦されるので、Aと答えよう。
・Cが特赦されるので、Bと答えよう。

これもやはり、実際はこのように変化します。
A本人だと言うわけなどないからです。

・Aが特赦されるので、Bと答えよう。
・Aが特赦されるので、Cと答えよう。
・Cが特赦されるので、Aと答えよう。→Bと答えよう。
・Cが特赦されるので、Bと答えよう。

で、実際にはBと答えました。

・Aが特赦されるので、Bと答えよう。
・Cが特赦されるので、Aと答えよう。→Bと答えよう。
・Cが特赦されるので、Bと答えよう。

相変わらず3分の1です。
そして囚人Cが特赦される確率は3分の2になったわけです。
なので、そんなこと訊いちゃいけません。


ちょっと突っ込んで、逆の場合を考えてみます。
あなたはまたもや囚人Aです。あるとき、囚人Bと看守の会話を聞いてしまいました。囚人Bは「ふたり死刑になるなら、少なくとも私以外の誰かひとりは死刑なんですよね。誰にも言いませんからAなのかCなのかひとり教えてください」と尋ね、看守は「Cだよ」と答えました。これは素直に喜んでいいです。上の問題と立場が入れ替わっているわけですから、囚人Aのあなたが特赦される確率は3分の2です。

もうひとつ異なる場合。
みたびあなたは囚人Aです。あるとき、看守同士の会話を聞いてしまいました。「囚人Bに訊かれちゃったよ、自分以外のどっちかは死刑なんですよね。誰にも言いませんからAなのかCなのかひとり教えてくださいってさ。どうする?」「まあどうせあいつは死刑なんだから、教えてやればいんじゃね?」と言っています。さて、囚人Aのあなたが特赦される確率はいくつでしょうか。これも素直に喜べばいいです。正解は2分の1です。


これらの問題は、ベイズの定理を用いれば理論で解くことができます。
ベイスの定理は迷惑メールのフィルタリングにも使われています。
経営学や行動科学、認知科学、政治学などにも応用されています。
ベイズの定理からベイズ推定が生まれました。
私のサイトのこのページ下部に、ベイズ推定を使った例があります。
さらに、確率論だけではなくベイズ統計学としても確立されました。

何かを選択しなければならない局面になったとき、何を選ぶか。
または、それをやるか、やらないか。
算数を知っているか否かで、大きく変わってきます。

私が出た大学の入試科目は、国語と英語と創作と面接でした。
算数は、からっきし駄目でした。
でも社会人になってから算数を好きになりました。
日常のあらゆる場面で役立つからです。
特にベイズは、私にとって具体例に当てはめやすいので楽しいです。
情報理論は現代に生きる人にとっては避けて通れません。
ベイズの定理から入れば、理工学的アプローチよりも解りやすい。
かといって頑固なベイジアンというわけでもないのですが。


参照:すべてWikipedia
モンティ・ホール問題
ベイズの定理
ベイズ推定
ベイズ確率
確率論
主観確率
情報理論

参考資料
伊藤清「確率論」岩波書店
三浦俊彦「論理パラドクス」二見書房
C.M.ビショップ「パターン認識と機械学習」シュプリンガー・ジャパン

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コメント

i様
解決できたようで良かったです。
じゃ○○こは13年目、奇跡です。

詳しく解説ありがとうございます<m(__)m>
やっとわかりましたφ(..)

桃の天然水も10年だよ、ヒューヒュー

i様
おはようございます。まず、囚人Bが死刑になることが明らかとなっている(=特赦はAかC)ため、看守が囚人Bに伝える選択肢は、前段階として次の4つです。

・囚人Aが特赦なので、死刑は囚人Bと伝える。
・囚人Aが特赦なので、死刑は囚人Cと伝える。
・囚人Cが特赦なので、死刑は囚人Aと伝える。
・囚人Cが特赦なので、死刑は囚人Bと伝える。

囚人Bが死刑になることを囚人B本人に伝えることはありません。
で、実際には次の2つだけになります。

・囚人Aが特赦なので、死刑は囚人Cと伝える。
・囚人Cが特赦なので、死刑は囚人Aと伝える。

囚人Aが看守に自分で聞くのとは決定的に異なります。選択肢はふたつ、答えは違う。よって確率は2分の1です。看守にとっては、囚人Aと答える選択肢もありえるんです。この場合における囚人Aの立場を100万円のやつにたとえてみます。

Aのあなたはコンビニへ行ってハガキを購入し、番組参加の応募をします。そんなところから話を始めると長くなるのでやめます。誰か別の人(Bとします)が箱をひとつ選んだとします。で、A(囚人でもAになります)もひとつ選びます。みんな選びました。今回は、司会者がどれかを開けるという手続きはありません(当然、選ぶ箱を変更できるという条件も消えます)。で、番組収録は一旦休憩に入ります。

Aのあなたは自販機でキリンレモン2101だかメローイエローだかジャワティーだかを買い、飲みます。そう考えると午後の紅茶って息の長い銘柄ですね。Aのあなたは隣の喫煙スペースから洩れる番組アシスタントとディレクターとの会話を聞いてしまいます。「Bがさぁ、外れは自分以外に必ずひとつはあるんだからひとつ教えてくんないかって言ってきてんの意味分かんない超受ける、スパーッ」「どうせBは外れだけど少しくらい夢を見させてやっても悪くないから教えてやればいいんじゃないかな、プカーッ」とかなんとか、なんだかよくわかりませんが、そんな感じです。

Aにとっては、外れがひとつ明らかになりました。「Aが選んだ箱以外のふたつのうちで」という条件ではなく、です。重要なのは、Bの箱が外れだという事実です。なので単純に、外れがひとつ減って、外れ1で当たり1の確率2分の1になったというわけなんです。

説明が上手くないような気がします。
数学者からの無駄がないコメントを待ちます。

先生! 囚人の最後の1/2と100万円の箱の1/3の違いがわかりません( ´_つ`)ノ
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