屋号

たに屋というのは父が30年ちょっと前に始めたときにつけた屋号です。私には思い入れがありません。と言うと少々誤解されるかもしれないので補足すると、たとえば「うるし庵」とか「クラフト コタ」とかいう名前であっても、30年使い続ければ今の私の中におけるたに屋と同じ扱いになる、ということです。つまり、改めて言うことでもなく名前は記号なのです。
いまの仕事のやり方を変えないままであれば、屋号も変えるつもりはありません。優れているとは言えませんが、これはこれで良いネーミングです。長すぎない、何屋なのか判らない、個人名でもない、ありふれすぎているわけでもない、晦渋でもない、既存の単語の組み合わせでもない、といったネーミングにおいて最低限は守ることが奇跡的に守られているからです。鼻濁音や拗音を入れたほうが、より優れたネーミングになったでしょう。しかしそれを父に望むのは望みすぎです。

この屋号の最大の問題点は、字面が記憶されにくことです。取引先からいただく書類などにも「谷屋」とか「たに谷」とか、私にしてみればアクロバティックな表記になっている場合があります。ちなみにwww.taniya.jpの谷屋は道後温泉の旅館で、www.taniya.co.jpも谷屋で、谷弥はwww.taniya.comです。タニヤといえばバンコクの繁華街です。でもまあ会計士も笑って許してくれていることだし、こういうのは最初に指摘しておかなかった当方も悪いということもあるので、そのままにしています。

ネーミングが優れた同業者は、近所にある石川ミノル氏の「石川漆宝堂」(しっぽうどう)です。濁音、半濁音、撥音と盛りだくさんでありながら、引っかかることもなく、固くも重くもありません。いちばん重心が下にあるのは「ど」で、最後に置かれているため非常に安定感があります。しかも、そこで急ブレーキして止まるわけではなく、長音的な「う」があるため、きつい感じがしません。口にしやすいし、口にしても不快な要素が皆無、サ行とタ行と母音というネーミングの無難なところを撥音などで繋いだ、ネーミングとして非常に優れた屋号であり社名です。ただ、私なら、即座に「石川」を取っちゃいます。でも「漆宝堂」っていう名前の小売店もあるんですよね。何屋か判りやすい漆って言葉を選ぶと、こういう事態に陥ります。ここさえクリアできたら、完璧なネーミングです。

尖ったイメージ、最先端のイメージにしたいなら、カ行かサ行にアクセントがいく言葉。おだやかで優しいイメージにしたいなら母音とマ行、重厚感を出したいならタ行と濁音、軽さはサ行と撥音と拗音、などなど、ネーミングにも技術はあります。既存の単語の中から言葉のイメージだけで選ぶことが自営業では多いです。でも、その言葉の意味を知らない人に聞かせて、どう感じるか、がネーミングでは最重要です。

女性は、ふわふわしてやわらなな響きの言葉を選び、ひらがなに開く表記が統計的に多い。これは平安時代からそうなので、急に変わることはない。
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