修理



とっくりのようなかたちの、蕎麦のつゆ入れ。毎年、修理しています。
飲食店のテーブルは、だいたい70cmくらいの高さ。その高さから落とせば、いくら陶磁器よりも割れないことがメリットな漆器といえども割れます。つゆ入れが割れずに欠けるだけで済んでいるのは、布を貼って補強してあるからです。

割れたら、だいぶ大変な修理をしなければなりません。ものすごく堅い下地を削り、漆と地の粉と砥の粉を混ぜた下地の錆地でくっつけ、布を漆で貼り、その段差が判らないように通常の下地を施す。そして漆を塗る。しかしながら、年月が経つと「やせ」が出てきます。

欠けやひびなら、下地で直せます。割れた陶磁器を修復する金継ぎも、古くから漆器職人の仕事です。新しいものに買い替えることは簡単。でも、それでは決して出せない何かがあります。

昔の日本は、座卓や卓袱台やいろりの縁に食器を置いて食事を摂っていました。カセットコンロの上に鍋を置いても鍋の中を覗き込める高さです。その高さなら、落としても割れません。でも、それならガラスも陶磁器も割れない気がします。



欠けるのは悲しいことではあります。しかし、欠けたものをそのまま使うでもなく、何も傷がついていないものまで全てを毎年送ってくる蕎麦屋には敬服します。いつまでもぴかぴかというのも何ですし(漆器は美術品ではなく実用品、使ってなんぼです)、これくらい活躍したんだなあと思うようにしています。思いっきり遊んできた子どもが膝に擦り傷を負ったときのような感じです。子どものいない私ですが、なんとなく。

他にも、ふつうのそばがき椀やお盆なども、すべて蕎麦屋のご主人のアイデアスケッチを基に作りました。花火の日にだけ使う、蒔絵の入った蓋つき椀など、この店だけのものも作りました。大きなこね鉢も、もちろん国産木材と漆。洗った食器の水を切る棚のようなものも作りました。つまり、とんでもなくこだわっているのです。漆器でそうなのですから、陶磁器、ガラス、建物、庭、そして蕎麦、他は推して知るべしです。数年前、そばがきを美味しいと思えないという人を連れて訪れたことがあります。その人は、そばがきが好きな食べものになりました。

温度変化に敏感な料理こそ、熱伝導率の低い漆器です。

布を貼ってあるのに、貼ってないようにすっきりと見せる。それが技なのだけれど、最近は「布を貼ってあります!」っていうのを全面に押し出した器も多く見かけます。でもそれって、下地が貧相で塗りも薄いってことなんだけれど、そんなことを自分からアピールしていいのかなあと、他人事ながら心配になったりします。おまけに、プラスチックにウレタン塗装の食器にも布を貼ったふうのものがあったりして、その無意味さにしばし考え込んでしまいます。

秘すれば花はどこ行ったって感じですね。

このお蕎麦屋さん、12月31日はお休みです。

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