類似、優良誤認、売上激減

ニュース3つ。

■最初のニュース。うちの近くにウチキという漆器屋があります。大丸が、卸から仕入れていたウチキの箸を、仕入れ値を抑えたいからウチキから直に仕入れたいとウチキに打診したら、ウチキは卸との関係上「できない」と返答。すると大丸は他のところから似たものを仕入れた。なのでウチキは大丸に抗議。よくある話だけれど珍しくネットニュースになった。
毎日jp
いきなり上の話から主題がずれちゃうんだけれど、漆器として売られていながら実はプラスチック製品というのは、作るところがだいたい決まっています。型を作って成型しなきゃいけないので、そんな機械を一介の職人や漆器屋が持てるわけがない。ロットもすごい数量だし。なので大抵は中国の工場で作られたものを日本の「漆器屋」が仕入れる。もちろん、木と漆でできた漆器でも同様の流れがある。

輪島だろうが会津だろうが若狭だろうが、廉価な箸は同じところで作っている。仕入れた漆器屋のシールが貼られ、輪島箸とか若狭箸とかになる(「輪島塗」という言葉を使わず「輪島箸」という言葉を発明した輪島は天才ではなかろうか)。それを仕入れる漆器屋は、類似だろうが同一だろうが文句を言わない。言えない。自分に意匠権などないからだ。

小売店にとっては、同じものをどこから仕入れるかの違いでしかない。どこから仕入れるかは、同じものなら安いところから、と考えるのもどこか間違っているような気もしないでもないけれど間違っていないような気もして、なんだか致し方ない。

で、今回の件に話を戻すと、意匠権を自己が持つならば、何をやっても勝てるわけで、訴訟しちゃえばいいのにと思う。そうでなくて抗議でメディアに流したウチキの狙いはどこなのか、私には解らない。

私はこれまでにいくつも真似されてきた。主に同業者、そして卸に。私はまともな素材しか使いたくない。なので価格は一般的に百貨店で売られている漆器と比べれば相対的に高い(ほんとは安いんだけどなあ、しくしく)。そこで、もっと安くできないかと卸が他のところで作らせる。かたちは同じものだけれど中身が違うので客層が違うから別に構わないし、そんな卸とは付き合わなくなるだけだ。いちいち抗議なり訴訟なりしていたらそっちのほうで毎日が忙しくなってしまう。同業者の場合は、かたちを生み出すことができなくなった人が真似る。こっちは、いくつか質問事項をまとめて内容証明でお送りしている。

取引先から言われたら喜んで類似品を作る業界であることが最大の問題。それと同時に、自分が権利を主張できるくらいアイデアとデザインがこれまでになかったものなのかどうかを見定めることができない世界なことも問題。

こんなこと言っちゃうとまたあれなんだけれど、箸のデザインなんてデザインのうちに入らない。箸を「デザイン」するなら、こんなのや、こんなのくらいでないとデザインとは言えない。理科の実験でビーカーだか何だかを持つときに使うやつのような感じの、北欧デザイン系のかっこいい箸があったんだけれど商品名もデザイナー名も覚えていないので検索できませんでした。ちなみに箸の原型は、木の枝を二本使ったという説と、枝分かれしているところをそのまま使ったり竹を曲げたりしたピンセットタイプ(トングのような感じ)という説があります。日本でも、いまのところ発掘された中で最も古い箸は、竹を折り曲げた「折箸」です。まあどっちでも別に私はかまいません。

ねじ込んで組み立てる箸は昔からある。

それにしても2年で25万セットも売れるっていうのは、だいたいいつも20個くらい作っている私には想像もつかない。プラスチックの世界はそういうところなんだなあと改めて思いました。


■次のニュース。テレビショッピングのQVCってところが、樹脂塗装した食器なのに漆塗りと謳ったとして公取から排除命令が下された。
時事ドットコム

これはたぶん製造だか仕入れだかが会津の「漆器屋」なのでしょう。「会津」とだけ言っていれば何も問題なかったけれど「漆塗り」と言っちゃったのでまずい。ウレタン塗装された「山中漆器」なんてたくさんあります。漆塗りよりも遙かに多いです。

漆器の世界は、優良誤認がまかり通っています。下地にポリサイトサーフェーサーを使っていようが、漆に石油溶剤を混ぜていようが、作る人も売る人も「木と漆」としか言っていません。それで「国産の木と漆を使っていますよ、ほんものの山中漆器ですよ」なーんて言っている。輸入木材を使っているところは国産と言わず「天然木」とだけ言っています。天然なんて言葉をつける時点で何かおかしい。中国から輸入した完成品の上から一度だけ国内で塗り直したものにどんな成分が含まれているのかを明らかにしているところはひとつもありません。横木を使っている人は、縦木ではなく横木であることを説明せず、これもやっぱり天然木。

こういったことは、そろそろ明確にすべきではないかと私は5年前から言っています。購入する人、お客を騙すようなことはいつまでも続かないのです。この流れは、今後さらに加速するでしょう。私が言うと営業妨害になりかねないので、第三者機関の登場が待ち望まれます。公的機関は納税額の多いところのご機嫌を損ねたくないので、こういったことに及び腰です。石川県の人間は「何が偽物なんてないよね今は」とか平気でのたまっています。線引きしたくないという気持ちは解るのですが、してください。

たとえば、ポリサイトサーフェーサーと石油溶剤を使ったものは、たとえ木と漆であろうと「漆器」と呼んではいけないという規定ができたとします。山中はじめ全国の漆器産地は壊滅します。まあ私としては一回壊滅したほうがいいとも思ったりするんですけどね。ミスタードーナツのノベルティのお弁当箱を作っているところまで漆器製造業というのは違和感ありまくりです。

まあそんなかたいこと言わずにポリサイト下地も漆器でいいじゃないですか、中は木で外は漆なんですし、ということであれば、原材料表示を徹底しても良いでしょう。「天然木・漆」だったのが「木(国産)・漆・地の粉・砥の粉」とか「木(中国産)・合成油性塗料(ポリサイト)・石油・漆・有機溶剤(シンナー)・顔料(カドミウム)」とかになるほうが買う人にとっては判断しやすいです。そんな程度の表示義務すらない漆器の世界はとんでもなく遅れているわけです。どうして表示に関する法律ができないかというと、力のある漆器製造業者が自分たちの使っている材料を隠したいからです。


■最後のニュース。香川県の高松刑務所で作られている香川漆器の売上が「激減」とのこと。漆器の売り上げが激減とは他人事ではない、と思って読んでみれば実は二割減。しかも好調時の売上が三十万円。ということは「激減」して二十四万円。

YOMIURI ONLINE

そんなの激減じゃありません。

決まった形を何個作ってもクオリティが同じという職人的な技能を養うなら、売れるものはそのときの世間の好みやテイストで変わるので、売れようが売れまいが誰のせいでもない。むしろ技術の継承を最優先するなら売れるものとかそんなことを気にしてはいけない。私見ではありますが、自営業や民間企業でない刑務所の中でこそ、売れなくなったら廃れてしまうめんどくさい技術を絶やさずにいてほしいと思ったりもします。

「作家」としてやっていける能力を養うならば、技能だけではなくデザインやマーケティングのことも学ばなければならない。芸術について知らなければならない。何よりもまず営業上手、世渡り上手でなければならない。私が最近まで仕事していた作家兼職人も、私と話をしているときはふんぞり返って威張りんぼうさんなのに、作家としての顧客から電話がかかってきたら電話なのに米つきバッタのように何度もお辞儀していた。言葉遣いも丁寧すぎて二重敬語になっていたけれど電話の相手もそれでご満悦のようなのでまあ問題ない。

職人のようにクリエイティヴィティが皆無で技能だけで飯を食うのなら、同業者よりも何か秀でたものがなければならない。それがこの刑務所の場合に「安い価格」しかないのなら、そりゃまあ売れない。

安ければ売れるという時代は、とっくに終わっています。
いまは、100円でもいらないものが世の中にたくさんあります。

乱暴に説明すると、漆器は大きなものほど高価。直径45cmの大きなお盆を使う家庭が、いまどれだけあるでしょうか。それが売れなくて高価なものが動かなくなったとか言っていても、ズレているとしか思えません。色の異なる漆を塗り重ねて彫ってという香川の特徴を活かすのは、いろいろあります。たとえば、カップとトレイのセットでも作ってみてはいかがかなと思います。切り子に対抗できそうな気もします。

椿皿という、昔から変わらないかたちの小皿があります。いまは大して売れません。売れないので、原価を抑えて小売価格を安くしようとする。ということは、下地はポリサイトサーフェーサーとなり、漆には石油溶剤などの混ぜ物が惜しみなくふんだんに使われる。漆の割合なんて微々たるもの。でもやっぱり売れない。どれだけ「頑張って」安くしても売れない。これが「漆器が売れない」と漆器の世界の人たちが言っている実態です。そうではなくて、椿皿というものがもう不要になったから売れないということに過ぎないんです。だから新しいかたち、新しいけれど普遍的なかたちを生み出さなくてはならないのです。既に存在しているかたちのものは、それを求めている人に行き渡ったら、そりゃ当然売上は減ります。

別の考え方としては、椿皿を普及させる、というのがあります。しかし、そっちのほうが困難で非現実的です。「これはすばらしいですよ」と熱く語れば語るほど逆効果ということになりそうですし。

売れないことを景気のせいにするのは簡単です。
でもそれは、思考停止です。
景気が悪いから価格を下げないと売れないというのも思考停止。
意志決定でも商品戦略でもありません。
価格戦略は、商品戦略の一要素に過ぎません。
赤木明登氏(の工房)が作る一客三万円のお椀は、年間数千個売れている。
何故か。

コメント

yym様
はじめまして。
ご覧いただき、また、コメントありがとうございます。

蒔絵は、漆や金で「絵を描く」と思われがちです。実際、漆器の作り手でもそう説明している人までいます。おまけに「蒔絵体験」とか言って、単なる「漆絵」を小皿に描かせるところまであります。そのため誤解が広がっているのでしょう。漆や金で絵を描くのは「漆絵」です。

蒔絵は、漆で絵を描き、その漆が固まる前に(というか、絵を描いた直後に)金粉を蒔き、固まったら研ぎます。そこから「蒔絵」と呼ばれるようになったわけですね。こんもりした木を描き、固まったら上から木の枝を描き、固まったら木の実を描く。そんな感じの繰り返しといいますか、塗り重ねるときは当然ですが下が固まっていないと描けません。そのため、ある程度の蒔絵になると、早くても二週間かかります。

蒔絵を施す仕事場は、埃がひとつでもあったら台無しです。描いたものが固まるまでは、古い引き戸の箪笥のようなところに入れておきます。そのため、一度に大量製造できません。一度にどれだけ作ることができるのかは、引き戸の箪笥のようなところに入るだけ、つまり引き戸の箪笥のようなものの容量と、漆器のサイズに依存します。ふつうのお椀や棗であれば、だいたい50個が限度でしょう。もちろん、一度にそんなたくさん描けない蒔絵師もいます。作家であれば同じ絵をふたつ描くことも少ないですし。

というわけで前説が長くなりましたが、

・二週間はかかる
・蒔絵師は、一度に作業できるのは50個

これが蒔絵の工程におけるキャパシティです。
(もちろん、いろんなケースがあります)
で、今回の事例にあてはめてみます。

2年で25万セットということは、2週間で5000セット。
一度にできるのは50セット。

よって、必要な蒔絵師は100人。

これが答えです。

景表法違反を突っつかれると苦しいかなと思ったのですが、ウチキは「蒔絵」とは言ってないですよね。なので何も問題はないです。メディアが「漆器に描かれている絵=蒔絵」と思いこんでいるから、こういう報道になったのかもしれません。と思ったけれど、報道を読んだら蒔絵がどうのこうのという取り決めみたいなものがあったようなので、蒔絵なのでしょうね。ものすごい数の蒔絵師を動員した大ヒット商品ですね。

ちなみに山中漆器の蒔絵師は、30人いません。
シルクスクリーン印刷の工場は、たくさんあります。

ishisone様
こんにちは。
そうです、それです、ありがとうございます。
一度使い、機能に驚きました。
そのためうろ覚えでした。
おまけに、グラスにはめる持ち手と
記憶が混ざっていました。
いろんなことをうろ覚えにしているので、
周囲に分かる人がいてくれてほんと助かります。
というか、こんな話題のそんなところまで読んで頂き嬉しいです。

初めまして。
いつも楽しく読ませていただいております。
疑問点がひとつ。
蒔絵は時間がかかると認識していました。
2年25万セットも塗れるものなのでしょうか。

北欧デザイン系のかっこいい箸

こんばんは。
北欧デザイン系のかっこいい箸とは、もしかするとkitastickのことでしょうか?
もしかして間違っていたら申し訳ありません・・・
kitastick
http://www.majamoo.com/products.htm#kitastick
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