二三味珈琲 shop舟小屋 



品川から205km行けば静岡県の掛川市だけれど、
うちから205km走っても同じ石川県。
(京都の内藤商店が200kmちょうどです)
というわけで、自転車で行ってみた。
能登半島。珠洲市、木ノ浦海岸。
最寄駅から約100km、能登空港から約50km
能登半島をぐるりと一周するR249から逸れ、さらに先端をまわる県道へ。
そこからさらに枝分かれしている崖の下に続く道へ。
(国民宿舎きのうら荘を目指せば迷わず着く)
海にたどり着き、道は終わる。
自転車で行けば、最後の下り坂はごほうびだ。
そこに、二三味珈琲がある。
豆の通販と飲食店向けの卸で、月間1トンの焙煎をしている。

 
営業は8時から16時。
これは単純な話で、二三味はカフェではなく豆売りの店。
全国に発送しているからヤマトが集荷に来るまでに焙煎する必要があるからだ。
発送が終われば仕事は終わり。
それでもここに訪れて試飲する人が1日200人になったこともある。
そんなことがこの場所で、というわけであっという間に現在進行形の伝説となった。
(現在は珠洲市の中心部にカフェがあります)

雑誌のコーヒー特集などでは必ず前の方に掲載されている。というのも話は逸れるが、雑誌のねた探しをしている人たちがどうやってねた集めしているかというと、雑誌とネットなのだ。そりゃまあ自分の足で全国1000店舗を飲み比べなんてできない。やったところでそもそも編集者だかライターだかはコーヒーの玄人でもないし、特集ごとに玄人になっていたら博覧強記になってしまう。なのでその世界で評価が確立したところが並ぶのだろう。でもときどき、なんだかなあと思うことがある。

コーヒー豆の焙煎には、他の物事と同じく流派があり、師匠がいる。二三味が修業したのは、バッハと並ぶ日本におけるコーヒー界の双頭、堀口珈琲研究所の堀口俊英氏。焙煎や淹れ方から店舗開店や経営のコンサルまで全てビジネスにしている。堀口では二週間くらいの「体験教室」もやっていて、分かったようなつもりになって開店しちゃう輩もいる。そこへ堀口は豆や袋などを卸しているわけだ。すばらしいビジネスですね。(狛江といえば焼餃子とチャーハンが美味しい狸小路を思い出す)それはともかく、ここで腕を磨いた人たちのコーヒーは、例外なくすっきりしていて味わい深い。

二三味の豆は200g840円と、むしろ安い。
たぶん家賃が価格に含まれていないからだろう。
おまけに1kg以上の注文は送料無料。
(豆の通販は、カフェのほうへ注文するのが良いみたいです)

それでも、この店に足を運ぶ人は多い。
珠洲市の市街地にカフェを出しても、
遠方から来る人ほど、この辺鄙な舟小屋へ詣でる。

伝説であり、伝説が生まれるということはストーリーがある。
「ストーリーのあるモノが売れる」とか最近よく小売店のバイヤーやプロデューサーが口にする。
だが、このコーヒー屋のようなストーリーを、彼らは提供できない。

二三味はマーケティングとは対極だ。
なぜ、田舎の人にしてみればよくある風景で、
都心の人にしてみれば驚愕のロケーションを選んだのか。
なぜ掘っ立て小屋なのか。
二三味葉子氏にとっては、簡単な理由だった。
実家なのだ。

それをわざわざ作るのは、偽物でしかない。
都心の人が現実逃避でイメージする
「まわりに人工物が何も見えない山(海辺)で暮らしたい」
というのは誰だって簡単に実現できる。土地建物で300万円しない。
そういった場所にショップやアトリエを構えている人もたくさんいる。
しかしながら、その土地に所縁のない人が立地条件として選んだ場合、
薪ストーブの薪を自分で伐ったりはしない。薪を購入する。
うまく説明できない。
ともかく、かつてマーケティングのプロであった私は、マーケティングを信じていない。
私はマーケティングで導き出されることの正反対をやる。
そのためにはマーケティングを知らなければならない。
どうでもいい話ですね。

舟小屋の前で、おばあさんが椎茸か何かを干していた。
この女性が全国に名を轟かせるカリスマ二三味葉子氏かと一瞬思ったが、そんなわけない。
私はおばあさんに「コーヒー売ってますか」と声をかける。
おばあさんは「やってるよ」と答える。
なので私は引き戸を開ける。
中も、とりたててどうということのない、雑然とした空間。
駄菓子屋にあるような上が開いた低い棚。
かつて何か商品が並んでいたのだろうが、今は小物入れになっている。
その向こうに、外のおばあさんよりは随分若い女性がふたりいた。



二三味ブレンド…香り5、酸味0、苦み5
いいなぎブレンド…香り3、酸味5、苦み0
つまり両極端のものを選んでみた。

いつものようにうみぼうずで挽いて淹れてもらう。
同じお酒を使ってもバーテンダーによって味が変わるカクテル。
コーヒーも挽くのと淹れるので味が大きく変わる。
自分がプロでなければ、まずはプロにやってもらうのがいちばんいい。
それを知っておけば、自分で淹れるときの指針になる。

「きれいな豆だなあ」と、まずは目で楽しむ店主。
この店主は二三味の淹れ方を知っている。
平たく言うと、熱くて、量が多い。
おまけに、なぜかたまたま同じ器具を使っている。
でも今回は、うみぼうずのいつのも淹れ方で作ってみた。



二三味ブレンドは、堀口系の定番である方向性。
でも、わずかにもったりしている感じがした。
洗いざらしのコットンのような感触。
それを人は「なごみ」や「ほっこり」と表現するのかもしれない。
人によっては「豊か」と形容するかもしれない。
私は、この方向性なら白磁のような感触が好きだ。




いいなぎブレンドは、すばらしく美味しかった。
「酸味」と書くと、他の食べ物における酸味を想像しがち。
コーヒーの酸味は「酸味」よりももっと適切な言葉があるはずだ。
だが日本語にはそのような単語が存在しない。
なので酸味としか言いようがない。とか思ってしまう。
酸味は嫌い、という人がコーヒー飲みには割と多い。
それは、豆の持つ酸味ではない何らかの酸味を知覚しているからだ。
いいなぎブレンドは雑味や引っかかりがなく、癖やアクセントまでもがない。
なのに他とは圧倒的に違う。メイクラブとゲイクラブくらい違う。
すーーーーーーっと入る、尋常ならざるさわやかさ。
というか春なので(「さわやか」は秋の季語)、うららか、なのかな。
かといって薄味というわけではなく、香りが広がるし、深さもある。
浅い水たまりではなく、透明度の高い湖のような感じ。
わけがわかりませんね。
私はコーヒーやワインを表現する文法を意図的に身につけていません。



酸味の強いコーヒーが苦手な人にこそおすすめ。
うみぼうずのおっさんも「うまいなあ」と絶賛。
私も「これはリピートしたくなる」と、うみぼうずのおっさんの前で口に出した。



スペシャルティコーヒーの世界は、自分がいちばんと思ってやっている人ばかり。
同業者でも美味しいものは美味しいと言うおっさんは好感が持てる。
あたりまえの話だけれど、料理人は比較されることを嫌う。
しかしながら、店の思惑とは無関係に、客は常に比較しているのだ。

そのあと、うみぼうずのブレンドをいただく。

あまりコーヒーに詳しくない私が美味しいと思うコーヒーは、
ぬるくなってもおいしいコーヒー。
なぜだか私は知らないが、ほとんどのコーヒーは冷めるとえぐみが増す。
冷めても美味しいコーヒーは、えぐみが存在しない。

そんな豆を購入できるところが、石川県にはひとつだけある。
全国でも余裕で通用するのになあと思うが、無名。
無名であるがゆえに量をこなすことがないので、きめ細かで丁寧。
ハンドピックで徹底的に容赦なくもったいないおばけが出るくらい不良豆を取り除く。
焙煎機は石川県の気候に合わせて煙突を改造してある。
そして、そんな能書きを無視して、ただひたすら美味しい。

氷をたっぷりと入れたグラスにエスプレッソを注ぐ、アメリカーノ。
その店にはアイスコーヒーがなく、アメリカーノ。
これを飲んだら私の言っていることを理解してもらえるはずだ。

まあ好みなんですけどね。
強烈な焙煎で「コーヒー汁」とでも言うべきワイルドなものが好きな人もいます。
雑味の宝庫で南米のいろんなものまで混ざっている感じ。
それはそれで美味しいと思います。
魚なんてぶつ切りにして山葵を溶いた醤油をかけて食うのがいちばん旨い、
というのも美味しいのと似ているような気がしないでもないです。



二三味のシールには、冷凍庫で保存と書かれています。
これは堀口系に共通することで、徐々に広がりつつあります。
そのアドバイスをしないコーヒー屋はものを知らない、という風潮まであります。
しかし、常温保存のほうが良いと私は確信しています。
一度、半分は冷凍庫に入れ、半分は部屋に放置してみればいいんです。
簡単な話です。

冷凍保存しろというのは、堀口系の功罪のひとつ。
そのように、自分で実験を重ねることなく、
教わった「手順」を覚えるだけで淹れられると思ってるコーヒー屋が跋扈し始めている。
でも最早ブランドなので、それが美味しいと思うようになっている。
繰り返しますが、すばらしいビジネスですね。

もちろん私は「冷凍してください」と言われると「なぜですか」と尋ねる。
どういう答えが出てくるかで、その焙煎人のことが、おおまかに判る。

ちなみにうみぼうずのブレンドは100g500円。
3000円以上だと送料無料。

他店の豆を持ち込んで飲み比べ、というのは下品なふるまいなのでおすすめできません。
鰻屋に鰻を持ち込む人、天麩羅屋に胡麻油を持ち込む人、鯛焼き屋に鯛を持ち込む人。
そんな人いません。
ただ、うみぼうずの店主と私は何というか、研究と探求と実体験が大好きなんです。
私が遠出して豆を購入したら、うみぼうずへ持って行きます。
堀口系かバッハ系か、袋を見せずに豆だけで店のおっさんは言い当てます。

二三味葉子氏はふたりめのお子さまが産まれるとかで、
(最初のお子さまが産まれるときは長期休業した。女性ならではのプロ意識である)
では私が訪ねたときに応対してくれた華奢な人は一体誰なのか、
てっきりその人が件の方だとばかり思っていた私には謎の残る船小屋詣でだった。



小屋から20メートルで、この風景。
良い天気で快適なサイクリングとなりました。

財団法人石川県産業創出支援機構 二三味珈琲(珠洲市)
きのうら荘 アクセスマップ
↑拡大図の、きのうら荘の先、道路の終わりに船小屋があります。
ただしこの地図はR249が間違っていて、珠洲市を南北に横断する道路は県道52号です。
R249はもっと西側で横断するので、この地図を鵜呑みにして249をずーっと走っていたらたどり着けません。
関連記事