青森産活帆立三昧



デフレスパイラルの打開は民主党には荷が重すぎるということで、不承私はバレンタイン300%還元キャンペーンを実施しました。何とびっくり1か月で300%となる、年利17000%超というFXも逃げ出す驚愕の高利回り。はい、バブルの忘れ物です。というわけで各地からチョコが送られてきてうれしい限りでございます。イベントは楽しんだもん勝ちです。で、チョコではなく生きている帆立を送ってきた方がいらっしゃって、ありがたく頂戴した。
活帆立を送ってきた青森出身の子いわく、青森の家庭には必ず「ホタテヘラ」なるものがあるという。ホームセンターやスーパーなど、どこにでも売ってるよ、とのこと。石川のホームセンターには蟹ハサミや蟹フォークや牡蠣ナイフはあるが、ホタテヘラなぞ見たことがない。私は調理器具マニアである。なので送ってくれと依頼したら、年末年始に帰省したとき購入しといてくれたらしく、わたしはようやくホタテヘラにご対面と相成った。しかし石川では帆立が獲れないという残酷な事実を告げた。いや、私は調理器具マニアなので、このへんでは誰も持っていないホタテヘラを持っているだけで満足なんです。

その子がバレンタイン前に、宅急便の伝票番号と、14日午前配送にしてある旨を連絡してきた。もちろんその子もバレンタイン300%還元キャンペーンのことは知っていたので、私の好きなオリオール・バラゲかな、それともマルコリーニとかのベルギー系かな、それともデメルとかのクラシック系かな、などと思っていたら、次々とうちに来る飛脚や黒ネコやペリカンなどはその子のチョコを持っていなかった。そして最後に、クールな人が大きな大きな発泡スチロールの箱を持ってきた。

開けてみると、武田久美子の胸など余裕で隠せる大きな帆立がたっぷりと入っていた。まず私は数を数え、刺身で食べられるのは何日後までかメールで尋ね、その返信を確認し、翌日中に全部食べちゃうのがいいと判断し(新聞紙を濡らして帆立をくるんでビニール袋に入れて冷蔵庫なら三日はもつそうです。私は翌々日に終日出かける予定だったので延ばさず短縮したのです)、その日から翌日の晩ごはんまでの献立を頭で組み立てた。

この日の朝食は三分粥だった。なぜなら前日13日は断食していたからだ。2010年は2月12日が一年でいちばん断食にぴったりの日だそうで、聞いたのが12日の午後だったのでとりあえず夕食を抜いて水だけ飲んでいたのだけれど、そんなの私の生活ではよくあることなので、ついでに翌日まるまる水だけで過ごしてみた。体の糖分がすべて消費されると、ふつうは頭がぼーっとしたり疲れたりする。そりゃそうだ。断食するとどうなるか。とりあえず糖分を消費しちゃったら、何と今度は脂肪を糖分に変換してエネルギー源にするのだ。よくできていますね。そこまで抜いてはじめてダイエットになるわけです。脂肪を消費し始めるのは断食二日目から三日目くらいからです。ダイエット目的ならそんな我慢するより食べて運動するほうがいいですね。というか断食の効用はダイエットにあるのではなく、毎日毎日動き続ける内臓を休ませ、肌を整え、体内を浄化することにある。他にも精神的な作用がある。断食明けのお粥の美味さったらもうほんとたまりません。話が逸れました。帆立に戻す。



まず私は、とっても体に良くて自然の甘味や旨味がたっぷりのフレンチデリカテッセンに出向き、フランス式のホタテヘラ使いを学んだ。ヘラを差し込んだらクイクイッとやって、殻を開いたら指で貝柱のまわりの器官を指でつるんと取り、最後にヘラで貝柱を剥がす。そう、闇雲にホタテヘラを差し込んでグリグリやっていては、せっかくジューシーなのに傷がついてしまうのだ。ふうむ、これは使えると感心し、ついでに、エスカルゴのブルギニョン風のブルギニョンを分けてもらった。



とりあえず刺身だろということで、夜は刺身でいただいた。私は帆立のヒモが大好きで、鮨屋で帆立のヒモの刺身しか食べなかったこともある。なのでほんとうにパラダイスである。おまけに貝柱もあるし全部ある。それぞれ鮮烈な味だったりクリーミーだったりして楽しめる。稚貝はまるごと貝を指でつまんでつるつるっといただいた。何もつけなくても塩が効いている。塩水で洗ったからだ。いちばん美味しい。ヒモは塩をまぶした手で握ってこする。貝柱はそのまま。他の器官は塩水で洗う。



そして真夜中、ビニール袋にたっぷりと入っていた稚貝を、自家栽培のにんにくを天日干ししてから漬けた自家製ガーリックオイル(バジルとローリエも入っています)と生のにんにくとで炒め、白ワインをたっぷりと注いでワイン蒸しにして、粗熱がとれたらタッパーに移し、ガーリックオイルをさらに足してオイル漬けにして、冷蔵庫に入れて、寝た。



翌日はオイル漬けを冷蔵庫から出し、何と言っても冬なので何の心配もせず部屋に放置。



翌日の午後は、海辺のカフェの軒先を拝借し、炭火焼き。焚き火台はユニフレーム。もちろん日本製。炭は残念ながら備長炭ではなく、名も無き木炭。年末年始に訪れた熊野の近くで購入しておいた、なんとか高校栄養科が監修したという醤油を垂らしたやつと、前日デリカテッセンで分けてもらったブルギニョンの、二種類の味。このころには既にホタテヘラ使いも堂に入ったものとなり、同じ動作を何十年と続けてこそ到達する職人のごとく、スピーディかつスマートに身を殻から外し、殻の上に乗せ、を繰り返した。帆立は帆立でまだ生きているので、ホタテヘラを差し込むと必死になって殻を閉じようとする。これに挟まったら超痛いことを事前に聞いていたので私は指を開口部にあてずに持つという器用な技を生み出し、自分の殻に閉じこもっていては駄目だと筋違いなことを思いながら私は異種格闘技であり相撲のぶつかり稽古のように私vs帆立大勢という不条理な対決に連戦連勝であった。ここをこうやると殻を閉じる、とかいった帆立の身体的ポイントなども把握してしまった。

魚介類を炭火で焼くときは、焼き加減の「絶妙なタイミング」というのが事実上存在しない。ヴェリーレアでもいいし、ウェルダンでもいい。刺身でいけるのだからほとんど生の帆立に醤油を垂らしてもいいし、醤油が焦げてヒモがかりかりになっていてもいい。なのでぼんやり海を眺めながら、波の低い日本海でサーフィンできる上手い人というか、真冬にするくらいだからそれなりに達者な人なわけで、そんな人の技を眺めながら、ぼーっと炙った。



ブルギニョン風は、当然のごとく美味しかった。これを自分で作るとなると材料がたくさん必要だし、ひとつひとつの材料を吟味し始めたら石川では到底実現不可能なので、プロから分けてもらうのが吉である。バターを混ぜて「塗る」感じにしても美味しいよとのことだったが、私はアニョーの香草焼きのイメージに近くしたかったので、混ぜなかった。というわけで、炙られた帆立から出てきた水分をブルギニョンが吸い、えもいわれぬ深い深い味となった。化学調味料の存在しない、ほんとうに心の底から美味しいと思えるというか、体がそう言っている味。シャブリよりもピュリニー・モンラッシェを飲みたくなった。画像、手前がブルギニョン、奥が醤油。



そして夜は、前日に仕込んでおいた、帆立稚貝のガーリックソテー兼ワイン蒸し兼オイル漬けを使って、ボンゴレロッソ的なやつを作った。リングイネが合うことは世界の常識ではあるが、なんとなくフィットチーネくらい幅があっても良いのではなかろうかと思い、パスタマシンの幅を8mmにした。ボンゴレロッソを作るときのこつは、ボンゴレビアンコとして成立しているものに、トマトを加えること。トマトは湯むきしなくてもいいけれど、種は取り除く。種と、種の周りのぬるっとしたやつは、美味しさに何ら寄与しないばかりかむしろ味を落とす。こんなところで「MOTTAINAI」と言っていては、誠に申し訳ございませんが高みに到達できないのです。そして、熱くなってきたオイル漬けが入ったフライパンに粗く切ったトマトを入れたら、しばらく弱火で放置。トマトを足してすぐに菜箸なんかでかきまわすと、トマトの炒め物になってしまう。放置しとけば、そのあとフライパンを前後すると、何とびっくりトマトは形を崩してオイルに溶け込みます。好みの問題かもしれませんが、好みの問題ではなくこっちのほうが美味しいと思います。

この方法なら、ホールトマトやトマトソースよりも遙かに美味、安価、添加物なし、新鮮、ゴミがない、と良いことづくめです。ちなみに私はパスタ120gに対し、トマトをふつうの大きさの桃太郎に換算するとみっつ使います。塩を足さなければしょっぱくなることなどないし、トマトはどれだけ足してもしょっぱくなるわけなどありません。飲食店は原価を抑えるために1個とか1個半しか使わず、塩や調味料で味を濃くしているのです。申し訳程度にトマトのみじん切りが乗っているボンゴレビアンコを食べたことがあると思います。あれは、アサリもトマトも少ないです。ペペロンチーノに彩りを添えるのがボンゴレではありません。

パスタが茹で上がったらフライパンの火を止め、パスタを加える。適当に3回ほどフライパンを前後して、パスタとソースを絡める。最後にエクストラヴァージンオリーブオイルをまわしかける。器に盛り、イタリアンパセリがなかったのでパセリをみじん切りしてたっぷりとのせる。できあがり。所要時間4分。生パスタは茹で時間が短いので、食べる時間よりも調理時間が短くて済みます。蛇足ですがパスタマシンを持っていれば、蕎麦切りも簡単ですし、餃子の皮などもぺろーんと出して型抜きで円く抜けばオッケーなので楽ちんです。ひとつあると便利ですよ。



さすがにこれだけ帆立の稚貝を使うと、まさにシーフードである。帆立以外には誰もいないはずなのに魚介類の旨味が凝縮されていて、塩はパスタを茹でたお湯でしか使っていないので刺激が少なく、それでいて濃いという私の大好きな味となった。ワイン蒸しに使ったテーブルワインを飲んで満足。他に二品くらい食べないとバランスが悪い気もしたが、帆立三昧ということでこれだけに留めた。野菜や根菜や豆や昆布や胡麻やキノコは、また明日から食べればいい。



というわけで、刺身、炭火焼き、パスタといただきました。次はぜひ青森の料理「貝焼き味噌」を作ってみたいと思っております。他にも薄切りにして蟹やトマトを挟んでミルフィーユ仕立てにしたり、グラタンやお吸い物など、帆立のポテンシャルはまだまだありそうです。私はその入り口に立ったに過ぎない。ごちそうさまでした。ありがとうございます。
関連記事