Appeal to novelty

「え、おまえまだそんなの使ってんの? そんなのもう古いよ、これ知ってる? こないだ出たやつなんだけどさ、超いいよ(笑)」とかいった言葉は日常で割と少なくない。情報機器や服飾品などは特に。「新しいもののほうが良い」ということで、なおかつ「古いものは駄目だ」というのまで付け加えて説得力を増す。でもこれは何ら論理的ではない。詭弁のひとつである「新しさに訴える論証」ってやつ。
 

この論理的誤謬は、しばしば「時代(ひとびとの生活様式)が変わったんだから、昔はそれが正しかったんだろうけど、今はもう違う。新しいもののほうが良い」という形で現れる。もちろん、そういうものもあるだろう。誰だって今さら蒸気機関車が良いとか、籠や飛脚や草鞋や竪穴式住居が良いなどとは思わないよね。でも、そうでないものもある。この「そうでないもの」まで「新しいものが良い」という詭弁に巻き込まれるわけだ。そもそも「そうでないものもある」時点でおかしいんだけどね。

新しいものが良いと思われている分野のものでも、新しいものは質が落ちていることがある。思い当たる節があると思います。安いたとえを出しますと、カップ●ードルはリニューアルするたびに美味しくなくなっているし、ユニ●ロの服も年々質が落ちている。新しいものが良いなら、そんなことあるはずがないのだ。でも現実には、よくあるんだよね。

また、これには逆の詭弁もちゃんとある。「伝統に訴える論証」(Appeal to tradition)と呼ばれるもの。いわゆる「伝統」について語られることの多くは、これだ。端的に言ってしまえば「伝統あるものが正しい」ってこと。これもまた強力で、おまけに日本人は「日本最古」とか「世界初」とかいうのにとても弱い。これもまた、全てがそうでないことくらい、いろいろなジャンルのものを思い出してみれば簡単なことなんだけれど、強力。一部の層に人気がある「ひなびた感じ」の漆器は、それは単にひなびた雰囲気を創り上げているだけであって、実は新しいものだし毎年新商品を出して買わせるなんだけれど、そんな商品に価値を加えているのは、実はこっちの詭弁だったりする。ややこしいんんですよ世の中。

「昔からそうしてきたことだから、正しい」とは言えない。
(私の周りはそんな人ばかりだけどね)

私は「伝統的工芸品」である山中漆器を作っている。伝統工芸に携わる人たちは、だいたいみんな「伝統」を口にする。それを宣伝文句、アピール材料にしている。さて、山中漆器よりも歴史がある漆器は、他にある。どうしようかね。で、伝統うんぬんを口にする人に限って、作っているものは石油混じりの下地を施した代物だったりして、錯誤で物を売っているわけですね。一方、プラスチックでできた食器を「近代漆器」などと名づけて売る人もいる。レンジも食洗機もオッケー。新しいものは良い、というわけだ。

私は、世の中そういうのが蔓延っていることを知っているので、どちらのアピールが来ても「ふーん」としか思わない。そういった詭弁を取り払って、対象そのものを見て判断する。たとえば、漆器の朱色はかつて水銀だった。今はカドミウムも自粛傾向にある。それで今は何が主に使われているかというと、やっぱり顔料で、含有物質のいくつかには発癌性がある。「漆器の朱色は、そういうものだから」ってわけ。絵画ならともかく、食べものを盛りつけて口をつける食器にそれはどうなのか、という観点で見ることがないのだ。使ってる人は自分が食器に塗っている物質が発癌性物質だとは知らないかもしれないし、知ってて黙ってるのかもしれない。いずれにしろ、顔料で出す朱色が良いので、みんな使ってる。さて、顔料の朱色が「良い」とされる根拠は、何なんだろうね。「やっぱり漆器の朱色はこれだよ」とドヤ顔で言う作家先生は、どうしてそれを「良い」と思っているんだろうね。

私は職人に対しても「何でそうなんですか?」と尋ねることがしょっちゅうある/あった。帰郷してすぐの頃は何も知らないわけだから聞きまくった。でも、だいたい聞きつくしたので、最近ではほとんど尋ねることはしない。例外なく職人は「昔からこうしてきたから、こうなのだ」としか説明してくれないからだ。でまあ、私は心の中で「こういうのもありうるんだけどなあ」とか思ってるんだけど、それ言うと「おまえ、俺を否定してんのか」と逆ギレされるのは太陽を見るより明らかなので、言わない。その人のことを否定してるわけじゃないのにね。かように「伝統」というものの魔力は強い。伝統的工芸品と呼ばれる世界に入る人は、それら「昔ながら」のことに対して疑問など持たずに覚えて身につけることが「一人前」とされているのです。

それが最善なのか否かは、考えてはいけない。だって、伝統だから。

「新しいものが良い」も
「伝統あるものが良い」も
何ら論理になっていないことをお解りいただけたでしょうか。

詭弁に騙されないように、もの選びしたいものですね。


Wikipedia日本版:新しさに訴える論証
Wikipedia日本版:伝統に訴える論証

Wikipedia日本版:詭弁
Wikipedia日本版:誤謬

はてなキーワード:詭弁のガイドラインとは
某巨大掲示板で、頭の足りない工作員(企業団体が雇う火消し及び世論誘導員)を揶揄するときのもの。

Wikipedia日本版の「詭弁」のページには、さまざまな種類の詭弁が実例つきで紹介されている。
一度目を通しておくと、役に立つと思いますよ。
詭弁術として身につけることはおやめくださいね。