バッテラ(鯖の押し寿司)

北陸で押し寿司といえば、富山の鱒寿司、福井の焼き鯖寿司、小鯛の押し寿司、サンマの押し寿司、鰺の押し寿司、蟹の押し寿司、柿の葉寿司などが有名です。焼き鯖寿司は寿司とも鮨とも鮓とも言えないと思っているので食べません。あんなの、おにぎりです。鱒寿司は、富山へ行ったときに購入します。富山ます寿司協同組合に加盟している店は全て、さらにいくつかの個人経営の店の鱒寿司、おまけに魚津などにまで遠征していろいろと食べた結果、私の好みはどの店か把握済みです。都会から来る人は輸入ものの魚に脂を足しているオイリーなものが日本海の海の幸イコール脂ノリノリという短絡思考が働くらしく好きなようですが、私はそうではありません。それがどこなのかは今回の本題ではないのでまた別の機会に。

今回は、鱒(富山産の鱒を使っている鱒寿司がどれだけあるかというと殆どない)ではなく、鯖の押し寿司。いわゆるばってらの作り方です。秋鯖が出始める前までには記事にしておきたかったので、今なわけです。私は12月から2月の初めくらいにかけ、毎年冬になると5回くらい作っています。というわけで、バッテラのレシピ、作り方です。
押し寿司というと、関西のイメージがあります。箱寿司って言葉が東京で通じないことからも判ります。鯖寿司となると、岡山県の新見が有名です。かつての寿司、なれ寿司の名残があり、ああいうの好きです。私が作るのは、なれ寿司でもなく、焼き魚がのったおにぎりでもなく、いわゆるほんとにふつうのバッテラ、酢で締めた鯖と寿司飯を型で押した、鯖の押し寿司です。

手っ取り早く食べたいなら、1時間ちょっとでできます。
何ら技術も調理器具も必要ありません。
塩(30分)→洗う→締め(20分)→押し(10分)、以上。
でもそれじゃあまりにもあれだし、時間をかけたほうが美味しい。
というわけで、ちゃんとした作り方を紹介しときます。


鯖は、真鯖だろうがゴマ鯖だろうが構いません。
大事なのは、旬か否かです。
以前ツイッターで、横浜のフランス風料理屋の人が、
恐らく普段は市場へ行っていないのでしょう、旬が終わった鯖を写メして
「新鮮な鯖! そのへんの寿司屋の寿司は食べられないですね!」
とかツイートしていて、この人は何を言ってるんだろうと思ったこともあります。

こっちですと、1匹だいたい五百円しません。
それで一般的なバッテラが2本できるので、まあそんなもんです。
(ただ私は、1本で1匹使っちゃいます)
三枚におろされたパックなら片身100円ですが、それはいやです。

魚屋で、ちょうど良いサイズの、ぷりっと身が張った鯖を選びます。
だいたい朝に獲れた魚なので、どれが新鮮かなんて気にしません。
毎日顔を出していれば、ラインナップと入れ替わり具合が判りますし。
三枚に卸すのが苦手なら、魚屋の親父に頼めばササッとやってくれます。



おろしたら、すぐに塩を振って干します。
笊の下に皿を敷いておけば、抜けた水で大惨事になるのを防ぐことができます。
塩の量は塩梅なので、どれくらいというレシピなぞありません。
時間については、15分と言う人もいれば、半日という人もいます。
私は、そりゃまあそうなのですが、様子を見ながら頃合いを計ります。
だいたい2時間から3時間です。

少しの塩で短時間で、締まり過ぎないレア感たっぷり、
とか言ってる人もいますが、バッテラ程度というか1日2日程度じゃ誤差の範囲内。
分子調理学を知らない人の戯れ言なので気にしなくていいです。
何かにつけ「冷蔵庫で保存すると長持ちする」っていうのと同じくらい俗説です。

真冬なのに虫が飛んでくるような素晴らしく快適な住まいの場合は、よくわかりません。




干したら、当然のごとく洗います。
洗ったら、薄皮をむきます。
薄皮をむくタイミングは人それぞれです。




洗ったのだから水気があるので、キッチンペーパーか何かで吸い取ります。
すぐでも構いませんし、2時間くらい放置でも構いません。
まんじりとしない時間、白い紙にくるまった鯖の生涯などに思いを馳せたりします。

そしてようやく酢締めに入ります。
私の場合は
・酢(とびっきり良いものを惜しまずに)
・メープルシロップ(隠し味にほんのちょっと)
・昆布(日高でも利尻でも大差ない)
・生姜(死にたてのフレッシュなやつ)
・レモン(国産無農薬の死にたて)
です。
もちろん酢だけでもいいです。
寿司屋でもここまでしません。

酢をけちりたい人は、ビニール袋と輪ゴムが良いでしょう。


(鯖の身の中央を削ぎ落としてあります)

締める時間は、これもまた人それぞれです。
20分くらいという人もいれば、一晩という人もいます。
漬け込み液の塩梅にもよります。
私はだいたい一晩ちょっと締めます。
締め過ぎなんじゃないのと思うでしょうが、酢のきつさは全然ありません。
レア感がなくなるとか身が固くなるとか言う人もいますが、そんなことないです。
それはなぜかというと、読んでいくうちに解ります。




そんなこんなで鯖を締めたら、小骨(中骨・腹骨)を取ります。
一回やれば、どのラインに小骨があるのか判るはずです
ここでもたついていたら、美味しくなくなります。




というわけで、締め鯖のできあがり。
一晩締めても、このレア感。
がっつり締めちゃってだいじょうぶなんです。

時間があるときは、さらに一晩寝かせると良いです。

締めに使った酢は、捨てずにとっときます。
次回の締め鯖に使います。
1か月くらいは何度でも使えます。

で、これは私だけなのですが、1本のバッテラに1匹使います。
片身は底に、片身は上に、というわけです。
鯖だらけでしつこい感じがすると思うかもしれませんが、そんなことないです。

上に乗せる片身だけ、炭火で皮目を炙ります。
炭は、謎の木炭でもいいですし、備長炭でもいいです。
ガスバーナーで炙るくらいなら、炙らないほうがいいです。
ガスコンロの上で、炭起こしで炙れば、都会っ子でもできるはずです。



焼き魚を作ってるわけではありません。
しっかりと炭が白くなってから(それはBBQでも同じ)、数秒間だけ炙ります。
それがめんどくさいならば、美味しいバッテラを食すことはできません。
炭がもったいないと思うなら、どうせバッテラは明日明後日なので、
その日のおかずを焼いちゃえばいいんです。
(このときはスペアリブと椎茸を焼きました)




炭火で炙った片身を落ち着かせている間に、白板昆布を煮ます。
短時間しか押しつけず、なおかつすぐに食べちゃう押し寿司なら、不要です。
なぜバッテラに白板昆布があるのか。
カステラの紙と同じことです。保湿です。

寿司屋の市販品よりも美味しいバッテラを食べたいから自分で作っているというのに、
カピカピに乾いた寿司になってしまっては台無しです。
少なくとも押し始めてから食べるまでに12時間あるなら、
白板昆布を乗せといたほうが良いです。

お湯で戻せば最低限それでも良いのだけれど、
椎茸出汁に酢と酒を足したやつで煮ると、
白板昆布単体で食べても美味です。




そして、米を炊く間、酢飯の材料を準備しておきます。
いろいろ試した結果、私の場合はこれに落ち着きました。
・いわゆる酢飯用の合わせ酢(米酢、りんご酢、塩、砂糖)
・これでもかってくらい細く切った青紫蘇
・炒ってから切った胡麻
爽やかさと香ばしさというわけです。




そうこうしているうちに、米が炊けます。
ふつうの水分比で、上に昆布をのっけとくだけでいいです。
昆布が入っていても、カニ穴くらいできています。
画像は土鍋ですが、鉄鍋で炊いたほうが遙かに美味しい御飯になります。
火を止めたら、蒸らしのあいだ、バスタオルか何かでくるみます。冬ですし。
蒸らしが終わったら、合わせ酢と切り胡麻と青紫蘇を加えながら切り混ぜていきます。
ねばねばこねこねしていてはいけません。
ここがバッテラ作りで最も気の抜けない時間との勝負です。

時間との勝負に勝ち、無事に全ての材料を用意できたら、押し型にセットしていきます。
もう出来たも同然です。




まず、美味しそうな締め鯖を底に敷きます。
なぜかぴったり収まるようになっています。
オイリーなのが好きな人は、トロ鯖の腹身だけを敷き詰めればオッケーです。




青紫蘇と胡麻をまぶした酢飯を詰めます。
酢飯の量は、押し型の縁より少し低い程度にしておくのが、私の好きな「固さ」です。




そして、皮目を炙った締め鯖をのせます。
最後に白板昆布をのせます。
酢飯と締め鯖の間に昆布を挟むのは、無意味です。
で、上から押し型の蓋をして「これくらいだな」って程度まで押さえます。
あとは、広辞苑か何かをのせとけば放置プレイです。
だいじょうぶかな、くさらないかな、という心配性の方は、
強力な輪ゴムを何本もつけてからラップでくるみ、冷蔵庫に入れとけばいいです。

押し型は千円くらいであります。
特に一晩二晩押す場合は、押し型が良いです。
クックパッドとかあのへんのどうしようもない手抜き技の紹介レシピだと、
サランラップで包んだりしています。
でもそれだと余計な水分が逃げていきません。
適度に調節してくれる、白木の型でないと話になりません。
手毬寿司ではなく、押し寿司を作っているのですから。

というわけで、押し始めてから55時間、
鯖を三枚におろしてからの合計だと4日ちょっと、
すばらしくこなれたバッテラのできあがりです。



これだけ締めて押すと、あほみたいにまろやかになっています。
それでいて鯖のフレッシュ感は残っていて、
生姜とレモンと昆布と青紫蘇と胡麻の風味が喧嘩せずにまるくまとまり、
酢の角もとれていて、濃厚なのに爽やかで、もうほんとに美味しいです。

ガリは、白板昆布を分けてもらった寿司屋から、ついでに略奪してきました。
器は大徳寺銘々皿の朱。
有次のペティナイフで切れば、美しい断面もらくらくです。


蛇足になりますが、押し型があると、いろんな押し寿司を作ってみたくなり、実際に作っちゃうようになります。これまでに私は、海老とタコのインドネシア風(ニョクマムと香菜)、生ハムとトマトのイタリア風(オリーブオイルとバルサミコ)、帆立とレンズ豆のフランス風(バターとチーズ)、タコとトマトのガリシア風、海老とレモンのメキシコ風(トマトとレモン)、などなど試したことがあります。それもこれも、基本のバッテラを把握してからのアレンジなわけです。


語源由来辞典:バッテラ
wikipedia日本版:鯖寿司
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