メリノウール:アイスブレーカー、スマートウール



寒いときは暖かく、暑いときは爽やか。
非常に優れた温度調節と吸湿放湿性能。
延々と着続けても、くさくならない。
メリノウールは、アウトドアアクティビティに最適な素材です。
ひとくちにウールといっても、いろんな種類があります。その違いは、主に羊の品種です。メリノウールの産地は、主にオーストラリア。次いで南アフリカ、ニュージーランドの順。ごくわずかに、フランス。ウールの中で最高の品質と言われています。毛が非常に細く(3分の1とも言われている)、長さも均一。柔らかくて、しなやか。それでいながらクリンプ(縮れ)が多くて弾力性が高い。なので毛同士が絡み合うため、糸にしやすい。そして抜けにくい。さらに型くずれしにくい。色は白く(「生成り」色の語源は羊毛。エクリュ。西洋はそうした色の羊毛がメインだった)、脂分が強くて光沢がある。水をはじくが、湿気を吸収して放出する。つまり、蒸れない。汗冷えしない。燃えにくい。スーツの生地としても最適です。

デメリットとしては、毛玉になりやすい。フェルト化する。といった程度。これは、メリノだけでなくウール全般に言えることなので、まあしかたないか、という感じです。耐久性に関しては、メリノウール100%だと、やっぱりいまいちな気もしますし、でもそれもウール全般に言えることなので、これもまた、まあしかたないか、という感じです。

メリノウールだったら何でも良いかというと、そんなことはありません。メリノでよければ、ユニクロや無印やモンベル(アウトドアの総合商社的な企業で、これという卓越した商品ジャンルがない)やパタゴニア(テロ組織シーシェパードのスポンサー)にだってあります。メリノといってもいろいろ。何かひとつを使っただけで、それがイマイチだったとして、メリノウールを否定するのは馬鹿げています。というわけで、帰郷してから約10年、ふだんの生活や登山などで、メリノウールを試してきました。

登山やトレッキングでメリノウールの靴下といえば、スマートウールが有名です。アメリカの会社で、ニュージーランドのメリノウールを使っています。無論私もスマートウールを選びました。初めて履いたときの感動は忘れません。絨毯の上を歩いているようです。厚み感とでも言うべきものが、尋常ではありません。それまで私は、そのような観点で靴下を選んでこなかったことに気づきました。そのような観点で選んで来なかったので、そのような体験をしていなかったのです。

着心地に差が出るのは、毛の太さが最大の要因。およそ19ミクロンを超えた太さになると、肌ざわりに不快感が出ます。ちなみに、日常的に手に入る織物の中で最も細かいものは、女性の下着です。また、ウールというのは羊の毛なわけで、羊が食べているものや生活している環境などによって大きく毛の質が異なります。遊牧民が織るギャッベの手触りの良さや弾力性は、遊牧生活している羊だからです。そして、紡績の方法なども大きく関わってきます。また、そもそも、羊毛を刈り取る時期によっても毛の質が異なります(厳しい冬を超えた、春に刈る毛が良い)。たとえば羽毛布団でも、中国で狭苦しくしいくされたものと、ポーランドで放し飼いされたものとでは、羽毛の性能が全然違います。中国産の羽毛だと2kgくらいないと寒さをしのげないけれど、ポーランド産だと1.2kgもあれば充分、アイダーダックダウンになれば800gで真冬の北陸でも充分あったかい、といった感じです。メリノも、やっぱりそうです。

メリノ種の羊からとられる毛は、23ミクロン以下ということで、これはこれで非常に細い。しかし、上述したように、チクチク感を感じはじめる太さは、19ミクロン以上。メリノウールを使った服でも、チクチクするものは存在します。で、大企業は廉価で粗悪なメリノウールを使って、チクチクしないようにするという魔法を用いて、あたかもその滑らかさがメリノの特長であるかのように謳うのです。つまり、化学処理するのです。

非常に大雑把な分類ではありますが、オーストラリアのメリノウールは太さが21から22ミクロン、南アフリカのメリノウールは太さが22から23ミクロン、対するニュージーランドのメリノウールは13ミクロンから平均19ミクロンだそうです。この差は圧倒的です。チクチクするか否かの境界線上なわけですからね。

ウールは中空構造になっているのが最大の特徴。熱伝導率が最も低いのは、空気。


最も厚みのある「Mountaineering」はエクストラ・ヘビー・クッション。まさに絨毯の上のよう。


左から、ハイキング、トレッキング(2足)、マウンテニアリング。薄めから厚め。

スマートウールの靴下は、メリノウール100%ではありません。たとえばマウンテニアリングは、毛83%とナイロン16%とポリウレタン1%です。これは主に耐久性によるものです。化繊に比べるとメリノウール100%は耐久性がない。特に靴下の場合は常に自重に圧され、微妙な摩擦も生じている。フェルト化してしまうのだ。現に、私が最初に購入した靴下は、足の裏の部分が固くなってきている。親指や踵が破れるとかいった面の耐久性ではなく、そういう意味での耐久性も関係あるのかなとも思います。

ちなみに、そりゃまあやっぱり伸びるので、少し小さいかなってくらいのサイズを選ぶと良いです。とはいうものの、そんなに選べるほどのサイズバリエーションはないんだけどね。境界線にいる人は、小さい方を選ぶが吉です。私は足のサイズが26cmなので、何も考える必要などなく、Lです。

私はベーシックなものを選びましたが、スマートウールの靴下はラインナップが豊富で、スキーやスノボ、ランニングなどから、ビジネスシーンでもおかしくない黒やチャコールの無地もあり、靴下に限らずレディスが充実しているのも特徴です。ただ、トップスもメリノウール100%ではないものがあったりして、ちょっと購買意欲を削いでくれます。

スマートウールの靴下を、厚さ別で3種類購入し、ふだんも履くようになった頃。アイスブレーカーのカタログを好日山荘で手にしてしまいました。そこには、さまざまなメリノウールのメリットが書かれており、何日も着続けたアルピニストだかのコメントが載っていました。ほんとかよ、と思いつつも、既に私は靴下で「くさくならない」ことを体験済みでした。なので、半分は「ありえるかも」と思ったのでした。コメントを少しだけ紹介。(現在はゴールドウィンの取り扱いになったためカタログの内容が変更になっているかもしれません)

Todd Windle氏「ニュージーランドを出発する時から2か月後に帰国するまで、僕はアイスブレーカーを着ていた」
Chris Bray氏「ほとんどの遠征用装具は次回まで休眠状態になるが、僕のアイスブレーカーは別だ。58日間に渡る北極での厳しい遠征の時も、シドニー周辺で過ごす時も、僕はほとんど同じ服を着ている。暖かく、涼しく、軽くてフレッシュでソフト。タフな上スマートで最高だ」

そしてカタログには「化繊と違い、アイスブレーカーは臭いを保持しません。現在の連続着用記録は196日です」とある。半年以上着続けることができるのです。これはもう、3日や1週間くらいなら全然平気ってことです。



アイスブレーカーは、ニュージーランドの会社。もちろんニュージーランドのメリノウール。スマートウールが、ちょっとかわいいイメージも持ち合わせているのに比べると、潔いまでのシンプルさ。私の好みとしては、断然アイスブレーカーです。特に、黒一色のハーフジップ長袖Tシャツの佇まいには、一目惚れしました(私は、登山やトレイルランなどでは、必ず長袖で、ハーフジップを着ている。暑いときは開けばいいし、寒いときは閉じればいい)。しかし、高い。スマートウールよりも高い。コム デ ギャルソンの長袖ハーフジップセーターと同じくらいする。

それはなぜかというと、アイスブレーカーのメリノウールは、メリノウールの中でもきめが細かい毛を使っているからです。とりあえず最もベーシックな厚さである260を購入した。冬に屋外行動するには最適の厚さだ。ちなみにアイスブレーカーもスマートウールも150とか200とかいった数値で商品を分けている。これは何の数値かというと、1平方米の重量。服飾における「目付け」のメートル法と同じわけですね。数字が低いほど軽くて、ということは薄い。乱暴に言えば、150などは夏向け。200は春秋、260は冬。ちなみにTシャツの厚さを指すオンスで換算すると、260は7.7オンスくらいだ。厚いのが解ると思います。

200で私にとっては心許ない感じだったので260にした。これは正解だった。なぜならウールってやつは暑いときに着ても何ら問題ないからだ。それくらい、温度調節と湿度調節に優れている。でも、200も買っちゃったんだけどね。その前に、日本未発売の極厚320を買ったんだけどね。320は、もはやベースレイヤーとは思えず、フリースくらいの厚さというか、もうほんと「セーター」である。雪国でも安心。そして私は思った。「200をベースレイヤーにして、この320を着て、インナーダウンジャケットを着て、テントで寝たら最高だろうな」と。それはテントだけではなく、ふだんの雪国での暮らしにも最適なはずである。インナーダウンではなく、ゴアテックスのジャケットを着ればいいのだ(ダウンは水に濡れると急激にパフォーマンスが落ちるので、実はアウターに不向きです)。


320は、セーターやフリースのよう。真冬でも風がなければこれ一枚でいけます。


260は、ベースレイヤーとしては充分な厚さ。ミドルレイヤーとしても使えます。


200は、まさにTシャツという感覚。真夏のトレイルランから真冬の下着としてまで大活躍。


同じように折り畳んだら、こんな感じ。左から200、260、320です。生地の厚さの差が、そのまま出ます。

なんだかんだでアイスブレーカーの長袖ジップTシャツが200と260と320の三つとなった。
とにかく気持ちよくて夏は涼しく冬は暖かい、蒸れることもないし汗冷えもない。
おまけに3泊くらいの山岳縦走なら着替えを持っていかなくてもいい、というのは驚異的。
荷物のボリュームや重量を気にしないでいいというのが、どれだけありがたいことか。
それぞれもう一着ずつあれば、ワードローブはそれだけでいいんじゃないのって話になる。
でもまだそれは先の話。

200と260と320の違いが判るよう、光に透かしてみました。
オートで撮っているため、200は明るくなってますね。
でもだいたい、ほんとにこんな感じです。









靴下とベースレイヤー以外も、全身メリノウールで武装できるように揃えてしまいました。
左の手袋とバラクラバはスマートウール、右の帽子とネックウォーマーはアイスブレーカー。


タイツはスマートウール。真冬の朝などに大活躍。

アイスブレーカーのすごいところは、ひとつひとつの製品が、どこでとれた羊毛を使い、どのような過程で製品になったのか、というのを商品についているバーコードで検索できるところ。ページはこちら。トレーサビリティ万全というわけです。こんなの、漆器屋でもやっていませんよ。というわけで、購入したらバーコード検索するっていう楽しみもあります。


個別バーコードは黄緑の独立したタグ。検索して観た後は、切り取っちゃいます。

アイスブレーカーもスマートウールも、ほとんどの商品を洗濯機で洗えます。アイスブレーカーの商品で「PURE MERINO」と表記されているのは、メリノウール100%のものです。これは日本の家庭用品品質表示法にも沿っています。「ピュア」とか「純」とかをつけることができるのは、100%のものに限る、というわけです。ってことは「ピュアポリエステル」と言えなくもないのですが、そんな表記をする人はいません。天然素材で多用される表記です。



アイスブレーカーは、今季(2012秋冬)から、アウトドアの会社エバニューから、スポーツ総合商社ゴールドウィンに日本での取り扱いが移りました(スマートウールはアウトドアの会社ロストアローなのに)。ゴールドウィンはこれまでのスポーツブランド導入手法と同じやり方で展開を始めています。つまり、売れ筋しかラインナップせず、うまくいけば拡充していくというやり方です。この定石には、疑問です。昭和時代ならともかく、ネット通販があたりまえとなった2012年、しかも円高。ほしいものがあったら個人輸入したり海外通販サイトで買っちゃいます。いくら低価格とはいえ、薄い150と200しかないようでは、アイスブレーカーのウエアを求めている人は、とっとと海外通販に走ってしまいますよ。そして、一度海外通販を利用すると、なかなか戻ってきてはくれません。私がいちばん困るのは、日本撤退です。おねがいしますよゴールドウィン。


こんな感じで、ミレーの袋に収納しています。収納場所はタンスではありません。


ウールで、長袖で、胸元をジップで開閉できる、ハイネック、というのは大好きです。
(繰り返しになるけど、暑くなったら開ければいいし、寒くなったら閉じればいいからね)
アイスブレーカーの他にも、ふつうに普段着として持っています。

これもいつかはご紹介しようと思いつつ一体いつになるのか全く未定の、私のお気に入りアウトドアウェアメーカー、モンチュラからもメリノウールのベースレイヤー(申し遅れましたが、インナーウェア、いちばん下に着るものを、山登りの人たちはそう呼びます)が出ています。でもそれは、見た目が余りにもスポーティで普段着としてはかなり難しいこと(モンチュラ最大の特徴である立体裁断は、ニットでは大した意味を持たないのもある)、そしてメリノウールの品質が判断つかないこと、などから、選びません。ましてやウエアやテントや寝袋やテーブルや調理器具やストックや時計など、何屋なんだか判らぬくらいのアイテムを出している総合商社的な「ブランド」のものは、はなから選択肢に入っておりません。何事もそうですが、専門メーカーがあれば、そこ選んどきゃいいです。

ウールQ&A:メリノウールって?
田尻洋品店:メリノウール 織物素材の基礎知識
東西トレック:メリノウール革新
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アイスブレーカー:アイスブレーカーのメリノウールって何?
ロストアロー:スマートウール
Amazon.co.jp:スマートウール マウンテニアリング
Amazon.co.jp:アイスブレーカー オアシス ハーフジップ ブラック

Wikipedia日本版:ウール
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