阿部和重「□(しかく)」



ホラーというと90年代前半に「リング」や「黒い家」などが売れに売れて私も有名どころはだいたい読んでいたけれど現在どうなっているのかはさっぱりわかりません。だいぶ遠くへ来てしまった感じです。しかし私がこよなく愛する阿部和重の新作であれば、ホラーであろうがなかろうが買いますし読みます。
 

子どもの頃はテレビでホラー映画やスプラッタ映画をしょっちゅうやっていた記憶があります。サスペリア、死霊のはらわた、エクソシスト、などなど。友人の家へ集まってみんなで観て「こえー」「うわー」とか言いながらも観ていました。でも、そんなホラーやスプラッタは、いつしか様式美となり、笑える要素が強くなっていきました。貞子が始球式とか、なんかもうね。しかし、なぜホラーやスプラッタをテレビでやらなくなったのでしょうね。「八ツ墓村のたたりじゃー」なんて、次の日みんな真似してましたよ、あほで楽しかったですよ。

阿部和重の小説は圧倒的におもしろい。笑える。真剣にやってるからこそのおかしさ、とでも言うべきその笑いの要素を、どこまで本人が意図しているのかは、また別の話なので省きます。それはともかく、真剣にやってるからこそ笑える、というのを書かせたら阿部和重は日本の歴代小説家の中でもトップクラスであると思います。笑わせようとした文章は「ほら、おもしろいだろ」「ほら、笑えよ」と押しつけられているようで、あまり好きではありません。お笑い芸人という名のテレビタレントの「芸」も、そんな押しつけがましさを感じます。あれと似たようなもんです。そんな程度じゃ笑えませんよ。阿部和重の小説が笑えるのと、テレビタレントの笑いは、違う。全然違う。地黒とジゴロくらい違う。

そんで話を戻すと、あくまでも私の中においての話として「笑えるもの」となったホラーを、真剣さを笑いに転化できる敏腕小説家が書いたら。そりゃもうとんでもなく笑える逸品に仕上がっているに違いない。私は、わくわくしながらページを開いた。





嗚呼、怖かった。

日本のホラーの怖さではなく、欧米ホラー映画の怖さです。偏執的なまでに視覚(だじゃれじゃないよ)にこだわる阿部和重としては珍しく、皮膚感覚と匂いを感じました。とはいっても、もちろんこれまでの小説に皮膚感覚や匂いがなかったかというとそんなことはなく、やってることはド派手なことが多かったりします。たぶんこの差異は、書き方の問題というか違いによるものかもしれません。初期の「ABC戦争」あたりとテクスチュアが似ています。テクスチュアに出てくるということは、中身がそうなっていないと出てきません。あたりまえです。

短編連作とはいうものの、単独でも読めます。夏の夜長にぴったりです。



阿部和重公式サイト(「□」についてのインタビューがありますよ)
リトルモア:阿部和重「□ しかく」
Amazon.co.jp:阿部和重「□ しかく」



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