New Order Live at Bestival 2012



初めて「Blue Monday」を聴いたとき、大方の感想がそうであるのと同じく、私も「何だこのバスドラ、叩けないだろ」というものでした。どんな曲なのかは、YouTubeをご覧ください。この記事の最後に貼ってあります。1983年にイギリスで3番目に売れた曲で、でもジャケットにお金をかけすぎたため1枚売れるごとに2ペンスの赤字だったそうだ。それでも、この画期的な曲にはこのジャケットでないと、ということでそのジャケットとなった。フロッピーディスクをモチーフにした、デジタル時代の幕開けを静かに宣言するジャケット。始めからゲームのある世代、エアコンの効いた部屋で快適に過ごして育つ世代に、これ以上なくフィットするものが登場した。


 
ニュー・オーダーは最初から宿命を背負っていたバンドだ。もともとはポストパンクの期待を一身に背負ったバンド、ジョイ・ディヴィジョンだった。少しずつ名前が知られ始め、とんでもなく内向的な歌詞は鬱屈した若い世代に支持され、ライブも評判となっていった。曲を作り、ボーカルを担当する、イアン・カーティスが、初めてのアメリカライブへ発つ前日に自殺した。

残されたメンバーは、素人同然だった。だが、音楽活動を続ける。ろくに楽器を演奏できないのに。曲を書けないのに。後に加わったジリアン・ギルバートは、ドラムのスティフン・モリスのガールフレンドで、一本指でキーボードを演奏している。つまり、何年経っても素人同然の演奏技術だったのだ。ニュー・オーダーと名前を変えて再出発したときは、担当の楽器をとっかえひっかえしていたらしい。

そんな彼らだからこそ、デジタル革命、電子楽器の恩恵を受けた。陰鬱なポストパンクから、メランコリックなエレポップへと変貌した。イアン・カーティスが自殺してから3年後の1983年、ニュー・オーダーは奇妙な12インチをリリースする。そこには、ミュージシャンの名前も、写真も、曲名もなかった。だが、あるコードによってそれがニュー・オーダーの新譜だと判る人には判った。聴いた人の多くは戸惑った。

それまで、電子楽器や打ち込みにしても、人力で演奏するものを模した曲がほとんどだった。むしろ、いかに人力に近づけるかを競うかのようだった。音色が典型的なシンセポップでも、リズムはドラムで演奏可能だし、メロディもピアノで演奏可能、そういうものだった。だが、その曲「ブルー・マンデー」は違った。あんなに速くバスドラは打てない。しかも、どこかぎこちない。私が初めて聴いたニュー・オーダーの曲も、ブルー・マンデーだった。圧倒的にかっこよかった。クリーンで、クールで、でも重くて。初めて聴いてから、もう30年経った。

ニュー・オーダーはロッキング・オン系列では全く相手にされていなかった。今はどうだか知らないけれどね。でも、日本人が大好きな情緒が滴り落ちてくるほどのメランコリックなメロディは、1980年代の田舎の日本でも割と人気だった確かな記憶がある。そんでまあ割と新譜のペースも遅くなかったので出る度に購入していた。日本が平成になった年、ハウスの勃興と共に、気がつけばニューオーダーはロックとダンスを繋ぐ親分のような存在となっていた。ろくに楽器を演奏できないのに大御所入りできるようになったのだ。

1980年代のライブが、どれだけ酷い代物か。いくつかが用意に入手できるブートレグを聴いてみるといい。ボーカルの声は最後までキーを拾えず、裏声になったり、唄えないほど低くなったりしている。楽器の演奏も、単調かつ下手だ。こんなの聴かされたほうはたまらないだろう。でも、そんなライブが許されるのは、ニュー・オーダーが素人同然と誰もが知っているからだ。大黒柱を自殺で失った彼らが、それでも音楽にしがみついている姿に、聴く人たちは涙するのだ。何ともおかしな構図である。

1990年代にはいろいろあって活動が途切れ途切れとなり、新譜も期待しなくなった。それは、初期の12インチシングルを集めたベスト盤「サブスタンス」があればいいや、あれ以上のものはもう難しいだろうし、という思いもあった。メンバーは別活動をとり(それらのシングルを含め全部持っている私は阿呆である)、つい最近はベースのピーター・フックがすったもんだの末に脱退するという形となった。

近年も来日ライブをしたり、私も遠路はるばる観ちゃったし、マンチェスタームーブメントの映画では当然のごとく主役級の扱いだったり、伝説ばかりが大きくなっている気がしないでもないニュー・オーダー。その決定打が、このライブ盤だ。2012年のフェス「Bestival」でのパフォーマンスを記録したもので、ニュー・オーダー史上最高のライブ盤と銘打たれている。英国や日本のレビューも大体そんな感じだ。果たして、へたくそなニュー・オーダーにおける史上最高のライブとは、如何なるものか。私はYouTubeで観ちゃいたくなるのを我慢し、CDが届くのを待った。

とても普通だ。選曲は、封印したことが暗黙の了解のようになっていたジョイ・ディヴィジョンの曲も3つ入っていて、他は代表曲のオンパレード。欲を言えば、イビザで録音してマンチェスターの親玉として君臨し始めるようになった曲「ファイン・タイム」を演ってほしかったのだけれど、こうしてジョイ・ディヴィジョン時代から復活した2005年にリリースした曲までを一緒くたに聴いていると、ファイン・タイムのようなごりごりのダンスのほうが違和感あるような気もしてくる。それくらい、同じ音色で奏でられる30年以上に亘る変遷の、本質的な変わらなさに、ほんのちょっぴり衝撃を受けた。

演奏能力は、とてもふつう。
ボーカルも、とてもふつう。
どこからどう見ても「とてもふつう」が「史上最高」となる、ニュー・オーダー。

これは、タイムリーに聴いてきた人以外には、何の価値もない「史上最高のライブ盤」だ。

ニュー・オーダーを聴いたことのない方は、初期の12インチを集めたベスト盤「サブスタンス」か、2005年に出た「シングルズ」を聴いてみるのがおすすめ。音色の古さにダサさを感じる人も一定数は必ずいる、ポストパンクの成れの果て、素人たちが音楽にしがみついてきた軌跡だ。



こちら↓は「ブルー・マンデー」です。イアンが自殺したことを知らされた、月曜日。どんな気分だい? という唄い出しから始まる曲。イントロのドラムが肝心なので、12インチのバージョンを貼っておきます。このフロッピーディスクをモチーフにしたジャケットデザインが、電子楽器とデジタルの幕開けを静かに宣言した、歓喜のデザインなのです。右隅にある色たちはカラーコードで、ちゃんと「New Order Blue Monday」と読めます。これもそうだし私が持っているの(日本コロムビア盤)もそうなのですが、中心がグレーです。でも、正真正銘のオリジナル盤は、グレーの部分が型抜きされています。そこまでフロッピーディスクにしたかったのです。なので赤字となり、そんな曲に限って英国で3番目に売れてしまう、因果なバンドなのです。30年前の曲ということを踏まえて評価してくださいね。





そしてこれが、ベスティヴァル2012における「ブルー・マンデー」です。ただのオッサンたちがぐだぐだやってるだけで、長年愛聴してきた私ですら、かっこいいとは思えません。アレンジも典型的なおっさん式だし。しかしそれでも、かっこいい曲です。縦ノリなのは、まだロックとダンスが完全に融合するまで(かつては同じものだったのだけれど)5年ほど要する時代の曲だからでしょう。ボーカルのバーナード・サムナーのノリっぷりが、結局いまでも素人くさいところも凄い。アンダーワールドのボーカルとは大違い。カラオケボックスの酔っぱらいのようである。大合唱が始まるのも微笑ましい。





3回くらい聴いたら、なぜだか「サブスタンス」を聴きたくなります。




セミオフィシャルサイト(←しょっちゅう落ちています
Amazon.co.jp:New Order Live at Bestival 2012
ウィキペディア日本版:ニュー・オーダー



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