奥吉野高原乃糸を中心に素麺のおはなし



漆器を注文された方から、私の好きな素麺のひとつである、奥吉野高原乃糸が送られてきた。おかげさまで今年の夏は美味しい素麺を堪能できました。有り難い話です。というわけで今回は素麺の話。違いがないと思っている方が多い素麺。でも、それぞれ違います。全然違います。PontaPantaくらい違います。
 


素麺と言えば揖保の糸がだんとつで有名です。漆器といえば輪島塗、あとはその他大勢、というくらいだんとつです。しかしながら、残念ながら兵庫の組合たちによる機械製造の量産型と言わざるを得ません。赤だろうが紫だろうが黒だろうが、それは量産型の高性能で均質化された味なのです。揖保の糸なら、島原の素麺で充分です。

島原は、三輪素麺の産地として最近名が知られるようになってきました。というのも、三輪素麺は三輪素麺と名乗っていながら地元では作っておらず、島原で作っていた偽装が明るみになり、開き直った三輪素麺の人は「うちは社名が三輪素麺というだけであって、三輪製の素麺とは言っていない」とか言ってのけちゃって、さらに有名になってしまったのでした。三輪を食べるなら島原で充分、ということになります。ちなみに三輪は、綿実油の産地だったために素麺づくりが発展した土地です。

また、世界一細い素麺を謳っているのが三輪素麺にあるけれど、これも残念ながら嘘です。いちばん細いのは、南関素麺の「雪の白糸」です。直径は驚愕の0.2ミリ。三輪の何とかかんとかの3分の2です。この差は大きい。しかも、それも長崎で作られています。機械製造になった大産地が、他の産地へと製造をまかせる。機械が作るんだから、どこで作っても同じでしょ、というわけ。漆器の世界と似てますね。で、ろくに調べもせず三輪素麺の言い分だけを聞いて、三輪素麺が世界で一番細いと触れ回る「グルメジャーナリスト」が跋扈する中、南関素麺はほんとうに世界で一番細い素麺を静かに作っています。

素麺は、塩と油がたっぷり含まれた食品です。でも産地によっては油を使わない技法を守るところがあります。かつて石川県の能登で作られていた素麺が、それです。そこで技法を教わったのが、現在富山県で作られている大門素麺です。というわけで石川県のスーパーマーケットにはだいたいあるので、幼い頃はもちろん今でも割とよく食べます。小麦の味がするし。ただし、私が「良い」と考える素麺ではなく、太さもまちまちです。

良い素麺とは何か。
これはもう単純な話で、細い素麺が良いです。
そして、細くしやすいように澱粉などを加えたものでないこと。

なぜ細ければ細いほど良いのかというと、歯ごたえと喉ごしです。極細の素麺を口へ運ぶと、通常の素麺の何倍もの本数が口に入ることになります。それを噛むときの感触がもはや脳内でエンドルフィンが出てるんじゃないかってくらい快感なのです。そしてそれを飲み込んだときの、喉を繊細に触れていく感じ。これを覚えてしまったら、もう揖保の糸や三輪には戻れません。なので、覚えないほうがいいかもしれません。

もちろん細くするのは難しいです。なので高価です。
でも茹で時間は短いので光熱費は抑えることができます。
一度、産地を訪ねてみると、素麺への愛着が沸くと思いますよ。

素麺を茹でるのは、割と簡単です。パスタのように大量のお湯を用意する必要もありません。沸騰したら素麺を入れ、またお湯が沸き立って来たらできあがり。つまり、素麺を50グラムや100グラム入れたところで沸騰がおさまらないような大量のお湯は、むしろタイミングを計れない困りものなのです。そして、ここが重要なのだけれど、冷たい水で、よく揉むこと。単に冷やすだけでは美味しい素麺になりません。コシを生むのは、揉みによってです。ただ冷水にさらすだけでは、締まるどころかグダーッとします。もちろん正確に言えば、温度が下がると縮んでいるのでしょうけどね。それとコシは話が別です。私が好む素麺は細いものばかりなので、ザルでごしごしなんてできません。ボウルに移し、揉み、水を替え、揉み、を繰り返します。丁寧に、丁寧に。力の加減は、やってるうちにつかめます。

きちんと揉んだ素麺は、ちょっとやそっとじゃ切れません。コシが生まれ、つるつるのぴちぴちです。乱暴に手で掴んで器に移してもだいじょうぶ。水をはった器の中へ素麺を移します。ぶっかけでも構いません。氷を浮かべるかどうかは好みでいいです。ただし、なぜかつゆに氷を浮かべる人が稀にいますが、それは間違いです。つゆを凍らせたものなら分らなくもないけれどね。私は、そこまでキンキンに冷えた素麺を食べるつもりもないので、だいたいいつも氷は浮かべずに、さっさと食べます。

私が好きな素麺は
・南関素麺 雪の白糸(直径0.2ミリ)
・奥吉野高原乃糸(直径0.5ミリ)
・半生一丈素麺
・小豆島手延べ生素麺
・三河安城手延べ生素麺

です。
今年の夏も6月27日にツイッターでそうツイートしています。
上の二つは、細さがすばらしい。
下の三つは、生や半生で美味しい。
というわけです。
(この記事最後にアマゾンや楽天のリンクを貼っときます)

これまでに何度も素麺についてツイッターなどで書いてきたため、ネット上の知人たちも南関素麺などを購入するまでに至ったりしています。相変わらずの口コミだかステマだか、自分の本業以外の宣伝だけは上手いというか、でもそれは私がたくさんの種類を食べ比べてきた結果なので説得力があるからなのでしょう。ちゃんと、美味しい素麺の美味しい理由を言えるというのが珍しいのかもしれません。だって、揖保の糸の赤より黒とか言ってる人に、どう違うのか尋ねても、具体的な説明は何も返ってきません。ただ単に、黒帯だから良い、というブランド志向なだけで、高いから良いという何と言うか日本の伝統芸である例のあれです。

あとは「味噌汁の友」もなんだかんだ好きです。
味噌汁の具に炭水化物という斬新さが、嫌いじゃないです。
山へ行ったら主食となっています。
他には小豆島の「島の光」もよく購入しています。

ともあれ、そんな素麺のひとつを頂戴しちゃったので、とてもうれしい。



奥吉野高原乃糸。直径0.5ミリ。うーん、美しい。

奥吉野高原乃糸は、その名の通り奥吉野の川上村で作られている。三輪素麺に含める場合もあるようだが、三輪の製造拠点である桜井市とは隣町ですらなく離れている。熊野古道が今でも熊野古道として機能している唯一の道、大峯奥駈道沿いにある自治体。そりゃまあ当然のことながら空気も水も綺麗。そして標高は500から600メートル。真冬は最高気温が0度を下回る日もある。その寒冷さが、美味しい素麺を生み出すのです。なので盆地の桜井市と一緒にしてはいけません。余計なことはせず、じっくりと冬の間に熟成させるので、繊細ながらも豊かな味わいと香り。素麺で、香りとか気にしたことありますか。ないなら、それはとてももったいなおことです。今すぐカートに入れてください、と言いたいところだけれど、今はもう購入できません。来年の夏を待ちましょう。

南関素麺は、熊本県の北端にある南関町で作られている素麺。全工程を手延べ手作業で作る素麺は、産地別でいうと現在ではここだけになりました。古くから将軍家に献上され、天皇陛下にも献上。北原白秋が、その白さと美しさを讃えました。南関素麺の「雪の白糸」は、とんでもなく細い。金箔職人と同じ凄味を感じます。針の穴を楽々と通る細さは、感動で涙が出るほどです。口いっぱいに頬張ってから、最初に噛むときの快感といったらもう、全身に染み渡るようです。

油を使っている素麺は、うまく保存すれば翌年の夏や翌々年の夏に食べられます。油が抜けて、さらに美味しくなっています。「ひね」と言われて、製麺所で保管しているものは高価です。ただし、保存料や虫除けのいろんなものを使っていない素麺は、いろいろと気をつける必要があります。また、何の油を使っているかというのも重要です。劣化(酸化)したら美味しくなるどころか反対のことになっちゃいますからね。小豆島の素麺が高評価なのは、油が胡麻油で酸化しにくいというのも大きな理由です。保存料などは、原材料に表記しなくてもいいものも世の中にはたくさんあるので、避けたいのであれば大手の産地は選ばないほうがいいという、これまた極あたりまえのことになります。

素麺だけじゃお腹がいっぱいにならないという人は、茄子の天ぷらなどを添えると良いでしょう。私は、野菜とタンパク質を頂きます。今回は、こないだ頂いた卯の花を椎茸出汁(素麺つゆも椎茸出汁が合います)で煮詰めたものと、これまた頂き物のミディトマト。素麺も頂き物なので、ほんとうに私は皆様のお陰で生きております。薬味は、葱と生姜が定番ですね。私も好きです。梅干しや大葉も多いですね。大葉は、ものすごく細く切るのがいいです。私はそれらに加えて、柚子胡椒や酢橘が好きです。というわけで、酢橘の収穫が始まるこんな時期に、素麺の記事をアップしたのでした。器はもちろん応量器。黒い器は、白さを際立たせます。それはともかく、こんな使い方をして申し訳ない。ランチョンマットは、冨田潤のテーブルランナー。



素麺について書く時には細さが判る画像を撮ろうと思ったのだけれど、そのためにわざわざ三輪の自称世界でいちばん細い素麺を購入して食べるのもなんだなあと思い直したので、奥吉野高原乃糸の細さは応量器に収まっている様子でご推察ください。こちらが直径0.5ミリ、雪の白糸は、直径0.2ミリです。

川上村観光協会:奥吉野 高原乃糸
amazon.co.jp:南関素麺 雪の白糸
楽天市場:三河安城 本手延べ生そうめん


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