アレッポからの贈り物、アレッポの石鹸



私は、ひとつの石鹸で、洗顔・洗髪・体洗い・食器洗い・水まわりの掃除・衣類の洗濯、すべてをまかなっています。その石鹸の素材は、オリーブオイルとローレル、そして水酸化ナトリウム。
 


むかしむかし、大学に入り独り暮らしを始めたころ。とりあえず生活に必要なものとして、洗顔料、ボディソープ、シャンプー、コンディショナー、食器用洗剤、バスタブ用洗剤、トイレ用洗剤、ガスコンロ用洗剤、洗濯用洗剤、床磨き用洗剤を購入した。そして、何かが切れると購入して補充して、という生活が長く続いた。それはほんとうに長かった。東京で暮らした十数年、ずっとそうしていた。

広告の仕事をしていた私は、それなりにトイレタリーや化粧品などの仕事をして、そのへんの知識も徐々に蓄積されていった。詳しくは書けない。で、私はどうするか。それらは使わなくていい。あくまでも私の場合はね。そして石川へ帰郷したら空気が乾燥していないので化粧水だけで済むようになったというのも大きい。化学物質まみれになるのは気持ちが悪い。さらに、これはあまり私のもの選びにおいてさしたる影響もないのだけれど、石川県は下水道がまだ完全に普及しておらず、各家庭の排水は側溝に流れ落ちて川へ流れて海へ行っている。海の分解能力は凄いのだけれど、さすがに気持ちの上では何とも思わないといったら嘘になる。ちょっと気になる。どうしようかな、という事態になった。

21世紀に入り、水洗顔やシャンプーを使わない健康法みたいなのがネットで広まっていた。しかし私は、さすがにそれは無理とも思ってしまう人間で、たとえば植物の茎を歯でしごいて歯磨きするというのは現代日本では実際問題無理だし、それはそれで科学の勝利なわけで、私は完全に科学と論理の人間なのです。話は逸れますが、なぜ国産の漆が中国産の漆よりも「優れている」のか、というのも化学なわけです。話を戻します。汚れを落とすには、水だけでは不十分。そんな単純明快なことも簡単に覆されるような人たちが、水洗顔などに騙されるのかもしれないし、ホームレスにハゲはいないという何の根拠もない俗説を信じてシャンプーとおさらばする薄毛の人もいるのかもしれない。

また、厳密に言うと、水道水で水洗顔してたら本末転倒じゃないの、とも思う。

何度か人に話したこともあるしツイッターでも何度か書いたのだけれど、
私は、自分の持ち物を、できるだけ「シンプル」にしたいと考えている。

優先順位としては、顔か髪だ。顔と髪に兼用できるものなら、体もオッケーだし食器洗いも洗濯も住まいもオッケーだろう、というのが私の結論。反対に、たとえば台所用洗剤で髪や顔を洗うとどうなるかというと、洗浄力が強すぎて肌がガッサガサになる。そんなの、試さなくても指の具合で推測できる。なので、顔と髪で兼用できるものというのは「洗う」ためのものであるにもかかわらず、洗浄力は強くないほうがいいという誠に不思議なものとなる。では、それは一体何か。どれか。この世に存在するのか。というわけで私は全ての基本である石鹸について調べ始めた。

古くから人間によって作られているものは、調べれば調べるほどおもしろい。要は油脂とアルカリを混ぜれば石鹸(アルカリの固形物)なわけで、オリーブオイルを煮詰めれば石鹸になるわけではない。シャンプーとリンスを混ぜると効果が無くなるなんてことも、なぜなのかが簡単に理解できる(リンスは逆性石鹸だから)。かつては牛脂と木灰を混ぜて作っていたというのも、なんだかものすごい。さらに遡って、石鹸が生まれる前はどうしていたのか、なんてのも人類の知恵が詰まっていて大変に興味深い。無添加石鹸のほうが環境に負担をかけるというのも考えさせられた。

手作りの石鹸も、いまはいろんなところで売られている。でもそれらの原材料は「石鹸素地」としか書かれていないことが殆どだ。私は、その石鹸素地が何なのかを知りたいというのに。というわけでまた調べる。すると、無添加や手作りを謳う石鹸の石鹸素地は、たいてい脂肪酸に水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを加えて化学反応させたものだということが判った。水酸化ナトリウムは苛性ソーダとも呼ばれていて、劇物ではあるけれど石鹸づくりには欠かせないものだ。

オリーブオイルを煮詰めて固めれば石鹸ができるわけではない。

また話は逸れるが、ベトナム戦争で有名になったナパーム弾も、化学で見れば石鹸のようなものです。

ちなみに日本の法律では、石鹸に合成界面活性剤が添加されていません。それらは複合石鹸あるいは合成洗剤に分類されます。シャンプーに含まれる添加物が髪や地肌に悪いと思ってお湯で洗髪している人は、石鹸で洗えばいいのです。きしむのが嫌だったら、クエン酸でもかけときゃだいじょうぶです。



で、化学物質が含まれていないものをあれこれ試して選んだのは、アレッポの石鹸。アレッポというのは地名で、シリアの街。昔から石鹸づくりが盛んな土地で、アレッポの石鹸といってもいろんなところから出ている。しかも「アレッポの石鹸」という商品名のものまで存在し、それがいちばん日本での流通量が多いので、なかなか難しい。何しろ「アレッポの石鹸」を輸入販売している会社の名前が「株式会社アレッポの石鹸」なのだ(しかしなぜか知れバルトそのような法人名は存在せず、株式会社デバイスドライバーズという会社のようである。こういうのはやめたほうがいいね)。正確には「アレッポで昔ながらの製法で作られている石鹸」ということになる。私はそれに落ち着いた。



アマゾンなどでも手軽に購入できるのは「アレッポの石鹸」と「アレッポからの贈り物」の二種類。まず私は、アレッポの石鹸を使ってみた。評判通り、顔にも髪にも良い。体を洗っても肌がかさかさしないし、洗濯や食器洗いに使っても何の問題もない。ローレルの含有率をアップしたものも試してみた。これはシリア本国では販売されていないそうで、日本や欧州(の女性)向けらしい。確かに、髪がきしまない。「アレッポで昔ながらの製法で作られている石鹸」を使ってみようかなと思った方は、少々値は張るが、これから試してみるといい。

唯一の難点は、これも検索すればすぐに出てくるが、濡れた場所に放置しておくとドロドロになる。なので水気を切るトレイは必須。そして、科学技術の結晶であるクリーミーな泡立ちに慣れた方は、泡立てネットも必須。手のひらでこすっても泡なんて出て来ないが、泡立てネットに入れて手のひらでこすると、ほんのちょっとしか減っていないように思えるが、でかいツラして厚顔な私の顔でも2つか3つくらい洗えるくらいの泡ができる。


泡立てネットの中で寿命を迎えようとしているアレッポの石鹸。


あと、ニオイがきついという声もネット上にはあるが、これはもうダウニー鼻に陥ってるのだろう。無香料ってことはオリーブとローレルが熟成された匂いそのままなわけで、こういう自然界に存在するものを「くさい」と思ってしまう鼻と脳になってしまっては、化学物質のほうがいい。私はダウニーを「くさい」と感じる側の人間です。

食器を洗うときや洗濯に使うときは、受け皿のついた大根おろし器ですりおろす。チーズみたいで美味しそうな見た目になる。それをジップロックでも茶筒でも何でもいいので容れ物で保管しとけばいい。鬼おろしでおろすと、まだまだ「固まり」なので具合が悪い。山葵をおろすための鮫皮おろしでは、まだすりおろしたことはない。マジックブレットを持ってる人は、とことんパウダー状になるまでやってみてもいいかもしれない。



「アレッポの石鹸」の標準タイプは、ネットでも私の住まいの近所でも、だいた500円前後で売られている。これで、洗髪、洗顔、体洗い、洗濯、食器洗い、などなどに使って、私の場合は1か月もつかもたないか、ぎりぎり持たないなあ、という感じである。さまざまなジャンルにおいて天然素材ものは化学による量産品よりも高価な場合が多く、オーガニック食品などはその最たるものだけれど、石鹸に関しては大差ない。なにせ、廉価だから。ものすごく安いものを探せば1個数十円の石鹸もあるだろうけどね。

そんなわけで「アレッポの石鹸」を数か月に一度買いだめする暮らしを続けていたころ、何の気なしに「アレッポの石鹸」でネット検索してみた。これが、いわゆる情弱というやつである。ネット上には、「アレッポの石鹸」の半額の約250円で売られている「アレッポからの贈り物」なるものがあったのだ。何ということでしょう。早速私は久しぶりにアマゾンを利用してみた。すぐに届いた。これはもう、だいたい同じと言って差し支えない。なぜ半分くらいの値段で売られているのかというと、それは決して品質や素材の差ではなく、単に日本の輸入している会社が異なっていて会社の仕入れや粗利などの都合でしかない。あとはプラシーボにかかりやすい方なら「アレッポの石鹸」にしておいたほうが幸せかもしれない。という程度だ。



ローレルの割合が高いのは「アレッポの石鹸 エクストラ40」で、髪のきしみが気になる人や、洗い上がりに
さっぱり感を求める人は、こちらから。ローレルが全く入っていないのは「アレッポからの贈り物 ノーマル」で、洗い上がりにしっとり感を求める人は、こちらから。これらがシリアのアレッポで作られている昔ながらの石鹸の両極端で、その中間に「アレッポの石鹸(ノーマルタイプ)」と「アレッポからの贈り物 ローレル」がある。そして私は2つの商品に特筆すべき差を見いだせなかったので、ふだんは「アレッポからの贈り物 ローレル」を人体と食器と衣服と住まいに使い、たまに「アレッポの石鹸 エクストラ40」を顔や髪に使っている。もしどちらかだけしか使えないとなったら「アレッポからの贈り物 ローレル」にする。つまり、よりシンプルな生活を希求している私にとってベストは「アレッポからの贈り物 ローレル」というわけだ。



多くの無添加石鹸や手作り石鹸とアレッポが決定的に異なるのは、その製造工程。2年も熟成する。なんでそんなに長い間熟成しなきゃならないのか、しなくてもいいんじゃないか、と思うかもしれない。でも、もし仮にそうならば、わざわざそんな手間隙かかることはしない。するには、理由がある。ネット上には「時間のかかるコールドプロセス製法で作っています!」なんていう自然派化粧品の無添加石鹸もあったりするが、よくよく読んでみれば1か月だそうで、そのページだけ読めば数日でできちゃう量産品に比べて時間がかかっていると思ってしまうかもしれないが、アレッポは、その24倍なのです。熟成はなぜ必要か。余分な水分をじっくり自然に抜くから。石鹸が締まると、減りや溶けが遅くなる。さらに、肌ざわりが良くなる。その最適なタイミングが、2年ということだ。出来上がりのチェックは味見するというのもすごい。また、原材料のメインとなるオリーブオイルから凄まじい。収穫する時期も決まっていて、最初に絞ったエキストラバージンにはスクワランが少なくて二回目に絞ったオイルにたくさん含まれているからエキストラではない、という明快な理由がある。

そんなわけで、重量と体積を計算すれば、これらの石鹸がどれくらい「締まっているか」が判る。

他にも、マルセイユ石鹸と呼ばれる一連のものや、モロッコのアルガン石鹸、カオリンなどが入っている「純白土天然石けん」や、脂肪酸と水とグリセリンだけを使って中和法で作られた「白雪の詩」や、豆乳で作った「豆乳せっけん自然生活」(これは完全無添加ではない)や、市販していない手作り石鹸のあれこれなどを、自分で購入したり頂いたりして使ってみた。その上で選んだのが「アレッポで昔ながらの製法で作られている石鹸」だ。いきなりアレッポの石鹸に全てを替えたわけではないので、より一層客観的なレビューとなっているはずだ。

無添加を謳っていたり、オリーブオイルだけと謳っていたり、天然素材だけでできているかのような石鹸がたくさんある。でも、それらにも例外なく水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが使われている。そうしないと石鹸にならないからだ。昔ながらの、植物を焼いて灰にして、それを混ぜて、というふうに作っているならば、それらのアルカリ剤も使っていない。だが、そんな作り方をしている真の無添加石鹸は、私の検索能力では見つけることが出来なかった。

田舎町金沢の男性としては割とスキンケアに関してあれこれ時間と手間とお金を費やしていた友人が、なんだかんだ言って洗顔料はロゼッタ洗顔パスタがいちばんいいと言っていた。なので私はアレッポをナイフで切って渡した。彼は以後「アレッポ!」としか言わないようになった。

洗ったばかりのお皿を舐めることはできますか。
洗ってすぐの濡れた衣服に口をつけて水分を吸うことはできますか。
私は、できます。


日本石鹸洗剤工業会:公式サイト
Wikipedia日本版:石鹸
洗濯・染み抜きドットコム:石鹸の歴史
Wikipedia日本版:アレッポ
Amazon.co.jp:アレッポからの贈り物
Amazon.co.jp:アレッポからの贈り物 ローレル
Amazon.co.jp:アレッポの石鹸
Amazon.co.jp:アレッポの石鹸 エキストラ40

楽天市場:アレッポからの贈り物
(Amazonの取り扱いがなくなったようで、楽天市場で最安値で送料も安いところをリンクします)



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