クラスボルスのリネン



リネン麻は、古くからキッチンとベッドルームの基本でした。寝具のシーツは、ベッドコットンとは言わず、ベッドリネン。テーブルクロスやガラス拭きも、テーブルコットンとは言わず、テーブルリネン。そんなテーブルリネンにもいろいろあり、いろいろあれば、これが正統というものがあります。ノーベル賞のパーティの席で使われ、スウェーデン王室の御用達である、クラスボルス。
 




リネンの本場ヨーロッパには、今でも真っ当なリネンメーカーがいくつかあります。スウェーデンだとクラスボルスの他にも、エーケルンド(ハーフリネンが多い)やヨブス、エルメスのOEMも手がけているカデーレンがあります。そしてベルギーのリベコ・ラガエはマスター・オブ・リネンの認定を受けています。蛇足ですが日本でリベコ・ラガエを取り扱っているリネンバードは、たまにクラスボルスを取り扱っています。でも、クラスボルスが売ってくれないそうです。そりゃまあリベコ・ラガエとリネンバードが同じ会社(カフーツ)なのだから、クラスボルスが売ってくれないのは仕方ないのではと思います。



さてそんなリネンメーカーがいくつもある中で、なぜクラスボルスを選んだのかというと、何とびっくり、クラスボルスはリネンの原種にこだわっているのです。栽培用に品種改良されたリネンなら、毎年同じ畑で栽培できます。つまり、毎年収穫できます。世の中のリネン製品は、99.99999999%これです。もちろんそれで何の問題もないです。一方、クラスボルスは原種なので、栽培収穫したら、その畑を四年や五年も休ませなきゃいけないのです。同じ畑の面積でも、リネンの収穫量は4分の1か5分の1ということです。同じ収穫効率だとしても。

麻というと日本ではシャリッとした素材だと思われています。実は厳しく規定されている風合いにおいても「シャリ感」など多用されています。でもそれはラミーの場合。古くから神道において最も重要だった大麻が禁止された日本では、言ってしまえば「ザラッ」としたラミーが主流となったのです。対する、リネンは、もっと柔らか。しかも、艶がある。そして丈夫なことは同じ。熱伝導率が高いのも同じ。吸湿性と放湿性が高いのも同じ。というわけで、グラスを拭いたり磨いたりするには最適。



だいたい何でもそうだけど、化学的なことをすると、均質で製造者にとって扱いやすくはなる。そして、耐久性が落ちる。量産型で、新品の時がいちばん良い状態っていうものだ。そうではなく、昔ながらのものをそのままっていうのは、大変に非効率であり、量産できない。そして、耐久性は抜群。リネンの場合は、リネンが持つ成分が豊富であるってことなので、抗菌作用が強くて、乾きが早くて、ぱりっとしているのに柔らかく、毛羽立たず、ほつれず、においがつかない。グラス拭きにぴったりである。グラス拭きにぴったりということは、漆器を拭くにも最適である。

また話は逸れますが、洗った漆器を布巾で拭くと傷がついてしまうのでは、と思う方が割といらっしゃる。それで漆器はハレのもので、ふだんは使わない、大事にしまっておこう、というムードになったのかもしれないし、要因は他にあるのかもしれない。いずれにしろ、布巾で拭いたくらいで傷がつくような漆器は、偽物であり紛い物です。確かに漆は使われているかもしれない。でも、塗料に1%だけ入っていても、漆塗りとか言っちゃう漆器屋がたくさんいるのです。本来、漆というのは非常に堅牢な塗料で、私なんてタワシで洗ってるんですよ。それでも傷はつかない。秋岡芳夫が、著書「暮らしのためのデザイン」で、うづくりで漆器をこすると、漆器には傷もつかず漆も剥げないが、こびりついた汚れだけが取れる、と綴っている。うずくりというのは、桐箪笥などの表面が凹凸ある感じになっている、あれのための道具だ。木の表面を擦って削っているわけなので、タワシ(棕櫚)よりも太くて固い、カルカヤが材料。それで擦っても傷がつかない。それくらい堅牢なのだ。ほんものの漆器であれば、どんどん普段使いすればいい。ただし「ふだん使いの漆器」とかなんとか謳っているようなものは、例外なくうづくりの攻撃には耐えられない。そんなこと謳わない、ちゃんと作ったものだけです。何なら、漆器屋や百貨店で、かるかや片手に品定めしてもいいのではないでしょうか。だってそれはほんものの漆器としてそこに陳列されているのだし、店員もそうセールストークしてくるのだし。逸れた話が長くなった。

植物が死んで、それを何かに利用するとなると、濡れるのと乾くのを繰り返すと、いずれはぼろぼろになる。これはもう、そういうものだ。漆器は、そのぼろぼろになるのをいかに先送り/引き延ばしできるかの試行錯誤の果てに築かれた、木を食器にする時の最適な塗料のはずだ。でも、そういう加工(木の食器の表面に塗料を塗るといった)を施さず、それ自体で最善なものを、というクラスボルスの姿勢に私は感銘を受けた。



私が選んだのは、飛び糸が残るもの。これはどういうことかというと、色のついた糸は、出番が少ない。デザイン上、だいたいどんな布巾やタオルもこんな割合だろう。
それでこの色のついた糸は緯糸なわけで、一回横に通したら、しばらく白色の糸が続くので、しばらく出番なし、休憩、というわけだ。で、どうしてそれが繋がっているのかというと、クラスボルスは、糸を切らずにそのまま休憩させといて次の出番が来てもそのまま繋がった状態で織っていく織機を、今でも使っているのです。近代化された織機は、例外なくカットする。そのほうがややこしくないし、使う糸も少なくて済む。



でも私は、ものすごく昔から現在まで、ずーっと同じ機械で、同じ糸の太さで、同じパターンのリネン製品を折り続ける、というところに感動し、正直好みではないカラフルでかわいい1枚なのだが、飛び糸が残っているこれを選んだ。大昔から、同じやり方を続けていたら、他はもうそれを作ることができなくなった、っていうのはもうほんとに私に好みにぴったりである。私も、そんな漆器づくりをしているのだし、私はものづくりという仕事と自分の生活に齟齬が生じる事態を最も嫌悪しておりますので。


かつてはクラスボルスジャパンという日本の代理店がありました。
クラスボルス本国の公式サイトにも日本における代理店として載っていました。
でも今はありません。
そして、正規代理店は現在ありません。

クラスボルスジャパンの衣笠さんのブログが今でも残っています。→こちら
そちらに、飛び糸についての記事もあります。→こちら

衣笠さんは、テーブルコーディネーターのクニアダヤスエやリネン屋の前田まゆみの師匠的な存在。
日本におけるリネンの第一人者でもあります。
表に出て来ないってだけです。
そんな人が代理店を立ち上げちゃうくらいなので、クラスボルスはほんものの中のほんものです。

日本には正規代理店がなくなったクラスボルス。
でもいまはインターネットがあります。
本国公式サイトで購入できます。

そんなクラスボルスのリネンを知ったのは、eenieという名前の、
宝石箱のような小さくて素敵なものが詰まっているお店。
もちろん内藤商店の棕櫚箒もあります。



クラスボルス公式サイト
eenie



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