サンタマリアノヴェッラのハーブティー

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香水と石鹸が有名なサンタマリアノヴェッラ。先日名古屋で購入したリキュールについては既にご紹介しました。もうひとつの真骨頂は、ハーブティ。なんといっても現存する世界最古の薬局で、800年前から変わらぬレシピもある。体の調子が優れないときに、その効能に合わせて飲む。それがハーブティー。自然治癒や予防医学ですね。私は純粋に味と香りを楽しむために飲むのだけれど。

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私が名古屋で選んだのは、ティサーナ・フェミニーレという、要は「女の茶」である。それが最も優美な香りではないかと推測したからだ。そうやってブレンドのひとつひとつに名前をつけているところが素晴らしい。無味乾燥な様式美や材料の羅列ではなく、女の茶である。念のため申し上げておくと、私は男である。さてそんなティサーナ・フェミニーレ、メインはバラ。赤いバラとピンクのバラの二種類。そこに、ローズマリーとエルダーとカモミールといった花、そこにオレンジピールとローズヒップとローズマリーとアニス。ハーブティを飲む方ならご想像できると思います。見た目は、ただのポプリである。ポプリを、ポプリとして利用すればポプリで、そこから放たれる香りはフレグランスで、茶として飲めばフレーバーである。こういうのはもうほんとに私の好みのどまんなかで、素材に自信がないとこういう無愛想な見た目にできない。香料も添加されていない。

いきなり話は逸れるが、香料は意外かもしれないが食品添加物の中でも最もブラック(ボックス)で、香料の製造元は、原材料を明かさない。どんなことがあっても明かさない。化学調味料や着色料よりも怖いんです。そんな香料を使えばコストを抑えて手間もかからずにハーブティや何やかやができるが、それは、してはいけないことなのだ。極東の田舎町に住んでいる私の手に届くくらい製造販売しているのに、そういう余計なことを一切していないサンタマリアノヴェッラは立派である。

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サンタマリアノヴェッラはイタリアなので、カップもイタリアがいいなと思い(大学生の頃にバイトしていた店が、そういうことにきちんとした店で、食器もカトラリーもテーブルリネンも全てイタリアのもので、店のロゴもイタリア語が最も美しく見える定番のフォントを使っていた)、でもリチャード・ジノリしか思い浮かばず、ジノリの中から日本人のおっさんが手にしてもへんてこなことにならないものを選んだ。300年以上も同じデザインで作られ続けている、ベッキオホワイト。彩色されていないが、彫刻的。縁も愚鈍な厚さがなく、そこそこ薄い。そして、白い。

名古屋のティサネリアではハリオのガラスのカップを使っていた。茶の色や透明度などが判りやすい、と思われているからこそハーブティのみならず紅茶でも無色透明なガラスで提供されることがある。でも実は、無色透明なガラスは、中に入った液体の色が判りにくい。白、白磁のほうが遥かに判る。何ともおかしな表現ではあるが「濃い白」が最適。同じ茶葉を何度も淹れてりゃ、濃すぎたかな、お湯が熱すぎたかな、といった「見た目の差異からから推測できる」ことも判る。無色透明のガラスだと、このニュアンスが判りづらい。光を透かして「まあ綺麗」と言うだけならばそれでいいが、それは「見た目の判断」とは全く異なる位相の話だ。また、これは一部の紅茶だけの話だが、ゴールデンリングと呼ばれるものが、カップに注ぐと現れる。これはもう無色透明のガラスでは絶対に無理。また、紅茶の場合は、器と茶葉の色の相性がある。つまり、無理なのである。なのでポットはともかくカップはガラスが候補に入らない。飲食店で、茶をガラスのカップで出すところは、せめてテーブルクロスを真っ白なリネン(上質なリネンは白い)にするなどの「見えやすい」工夫をしてほしい。

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もうひとつ購入したハーブティがあって、それはマタニティという名前で、名前の通り妊婦さんに良いもの。原材料は、ミント、ネトル、オレンジピール、ルイボス、ローズヒップ。ちょうどおめでたが判明した人がいたので、お土産兼お祝いとして。ぱっと見はミントが多い。妊娠期に不足しがちな栄養素を補えるそうで、さすが薬局である。で、渡してから再び取り返して私が開封して淹れるという、もう何がお土産なのかお祝いなのか解らないのだけれど私も飲みたいので淹れて飲んでみた。

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マタニティブレンド。


刺激も渋みもなく、かといってえげつない香りや甘さもなく、それでいながら「美味しい」としか言いようのないお茶だ。優しく、ふんわりと香りが広がる。ミントがメインでローズヒップも入っているのに、当たりが柔らかい。テニスに例えると、キレキレのスライスショットのはずが、打ち返すこともなく優しくボールをキャッチして両手で包み込むような具合だ。試合にならない。妊婦でもないのに、またすぐ飲みたくなった。これはすごいことだ。きつくなく、でも豊かで深みのある香りが、体に浸透し、体の隅々に行き渡ったら、儚く消える。消えた後の余韻までもが儚く、数十分経つ頃にはそれも消える。すると、また飲みたくなる。安堵や安らぎや落ち着きといった状態を、長く保ちたくなる。人間は、食べものと飲みものでできているということが、よく解る。

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紅茶とは違ってハーブティはジャンピングなど気にしなくていいし黄金ルールもない。厳密に言えば、それぞれのハーブに適した湯温と抽出時間があるのだろうけど、ブレンドされたものだったら言われた通りにすればいい。言われた通りに一回淹れてみて、あとは室温や道具や水質でアジャストしていけばいい。とはいうものの、花が開く姿を観たいので、ガラスのポットを購入した。ハリオの、ジャンルでいえば急須である。しかしこの急須、そんじょそこらのティーポットよりも簡単にジャンピングする逸品らしく、紅茶で使う人が多いようだ。縦長なので中国の工芸茶もいけそうだ。底面積が小さいのも好み。そして、びっくりするほど廉価。アマゾンで送料無料で990円である。内側にセットする茶漉しもついてる。私はすぐ捨てたけれど。

次に考えることは、茶の保温。磁器のポットなら100円ショップのニットキャップでも被せておけばそれでいいが、ガラスのポットは温度が下がる。なので、ティーウォーマーは必須。そして、ティーウォーマーにセットするキャンドルも必要。そのティーキャンドルなのだが、よくあるキャンドルは例外なくパラフィンが主原材料で、そんな有害物質を自分の住まいの空気に広げたくない。あまり知られていないが、ディプティックなどの「アロマキャンドル」も、主原材料はパラフィンである。あんなの吸ったら駄目だ。というわけで、蜜蝋100%のティーキャンドルを入手。燃焼しているときの匂いのなさ、息を吹きかけて火を消したときの、煤のなさ、匂いの良さ、何もかもがパラフィンの蝋燭とは異なる。蜜蝋100%のキャンドルについては、また改めて詳しく説明します。

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ポットとポットとカップにお湯を入れ、キャンドルをセットし、抽出するためのポットのお湯を捨て、重量を計測したハーブを入れる。すぐさま、沸騰したてのお湯を注ぎ入れる。じょぼじょぼっと音がするくらいの勢いで入れる。沸騰したてのお湯を使うのも、音が出るくらいの勢いで注ぐのも、酸素を「なくさない」ためである。それでなくとも日本の水は軟水で、味が出にくい。で、すぐさまポットに蓋をして、ティーウォーマーにのっける。既に部屋にはハーブ園だかバラ園だかのような香りが静かに漂っている。ぱりぱりに乾燥していた花たちが、息を吹き返すかのように広がり始める。この姿は無条件に美しい。

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ティサーナ・フェミニーレ。


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恍惚感すら覚える美しさ。


うっとり眺めているとあっという間に時間が過ぎ去るので、時間に気をつけながら、6分という割と長丁場な抽出時間なのだけれどあっという間に6分経ち、時間が来たら、茶漉しを通して、もうひとつのポットへ移す。渋みや雑味などは一切飲みたくないからだ。それに、抽出したポットから直接注いだら、注ぎ始めと最後の一滴とでは、香りも味も全然違う。なのでポットひとつで茶を淹れるときは、マドラーのようなものを軽く一往復させる。ともあれ、ちょうど良い抽出で、保温もばっちり、何も気にすることのない、美味しいハーブティの時間である。

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ティサーナ・フェミニーレは、かなり華やか。2種類のバラをはじめとした花々がたっぷり入っている。でもそこはサンタマリアノヴェッラ、押し付けがましくなく、過剰にくどいこともなく、ごく自然に、その香りを空気の中に漂わせる。ハーブティの専門店や個人経営のブレンダーだと野趣が前面に出がちで、言ってしまえば夾雑物も盛りだくさんで、それがナチュラルだよとかいった何も考えていない思考回路で、そうではなく良い素材でなければ到達できないところへ進路を進めるのがそれを使って何かを生み出して対価を得る人の役割だろと思う。そんなのでよければわざわざ買わなくても自分で花を摘んで乾燥させればいいだけであって、わざわざ買わない。草花をただ乾燥させているだけなのに、この極上の洗練さは驚くべきレベルだ。ずーっと、ずーっと、その湯気でいいから吸っていたくなる。

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勘違いしている人が小学校の教師にまでいて、ちょっとどうなのと思うことがあって、湯気は、気体ではなく液体だ。水が気化した水蒸気は、無色透明である。湯気は、水蒸気が冷えて水になったものだ。そして湯気は純粋な水のはずなのだが、温かい料理を目の前にして湯気が立ち上っていて食欲をそそる匂いがするように、茶やコーヒーの湯気にも、香りがある。厳密には香りの素は湯気には含まれていないかもしれないし、もし含まれているとしても人間が知覚できない僅かな量だろう。では、私たちは、温かい料理を前にして湯気を吸って食欲をそそられているのは、どのようなメカニズムによるものなのだろうか。単純に、湯気とは別に、匂いの素が放出されているからです。で、湯気が上がるということは空気の流れがそうなるわけで、より一層その匂いが鼻の粘膜へ届きやすいということです。また話が逸れて長くなってしまった。細かいことはともかく、ずっと湯気を吸っていたい。

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これのためだけに購入したリチャードジノリのベッキオホワイトに注ぐ。明るく華やかな色。もっと赤みがあるかと思ったが、黄色(黄金色と言えば良いのか)。濁りもなく、高い透明度。空気と一緒に口の中へ入れる。つまり、啜る。香りがふわーーーーっと広がる。しばらくすると、味覚のうち甘みを知覚する。余計なものは一切ない。渋みや苦みといった不快な要素が全くない。ただひたすら繊細で華やかで甘美な香りだけしか存在しない。ローズヒップが入っているのに、酸味を殆ど感じない。よくあるローズヒップティのあの酸味は一体なんなのだろう。これはタランテッラ(かつてヨーロッパで流行した、病を治すための踊りとその音楽)ではなく、モーツァルトのフルートとハープの協奏曲のような天上界だ。とにかく空気にめろめろである。

よろしいですか、四十過ぎた田舎のおっさんが、甘美さにめろめろになるんですよ。それくらい甘美。濃密ではないけれど確実に存在する上質な官能性。これは仕事中のティーブレイクで飲む茶ではない。仕事なんてしたくなくなる。なんていうか「まだ東京で消耗してるの? こっち来なよ。何もしないで愛をささやき合おうよ」という感じである。この、空気で言うと二酸化炭素のような存在の、確実に存在する官能性、男の私が「女の茶」を飲んだからこそ感じるのか、女性が飲んでも感じるのか、はたまた女性ならば「あーこれ私の体と同じ味」とかいった意味深なのかピントがズレてるのか判断しがたいことを言うのか、それは定かではない。

それはともかく、ティサーナ・フェミニーレが現出する(或いはいざなってくれる)のは、まさしく花と葉っぱしかこの世に存在しないかのようであり、それを人は花園と言うのかもしれないが、花園につきものの虫や土といった「他のもの」を一切感じさせない。花と葉っぱそのまんまなのに、とてつもなく洗練されている。マタニティが深みや安心感や落ち着きを与えるのに対し、ティサーナ・フェミニーレは雲の上の極楽浄土でふんわり浮かんでゆっくりと揺れているようである。

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洗いざらしのコットンのような茶もあれば、極上のリネンのような茶もある。一方でポリエステルのような茶もあれば、レーヨンのような茶もある。サンタマリアノヴェッラのティサーナ・フェミニーレは、シルク。心と体は、極上のシルクに包まれ、たゆたう。

カモミールなどのハーブティ単体を常飲している方、ブレンドのハーブティが好きな方、そしてハーブティを全く飲まない方、全ての方におすすめできる、全く害のない、それでいて美味しく、薬効も考えられたハーブティです。さすがサンタマリアノヴェッラ、茶はメインの商品ではないのに、そのへんのハーブティ屋が尻尾を巻いてしまう何段階も上の出来映えです。

飲み終えたら、ハーブをポットから取り出して、キッチンペーパーにぶちまける。放置しとけば、ぱりぱりに乾く。それを、適当な容器に入れる。ポプリである。しばらく私の部屋は、ティサーナ・フェミニーレの香りに包まれる。

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通常は100g3000円ほどでヤマノが経営する店舗や並行輸入屋が扱っている。そのパッケージがおなじみだ。名古屋で購入したこれらは、約10杯ぶんの30gと少ないので、いろいろ試せるというか、好みでなかったとしても気軽に諦められる。そんなことには絶対にならないと私は思うけれど。いずれにしても1杯200mLあたり60円から90円くらいなので、決して高くない。それに、世の多くのブレンドハーブティが、それ単体ではイマイチだからブレンドしちゃった代物であるのに対し、サンタマリアノヴェッラのハーブティはブレンドでなければ見せてくれないものを見せてくれる。材料をひとつひとつ用意して同じ配合でブレンドする手間とコストを考えたら、圧倒的に安い。

自然派というか天然素材にこだわる人の中には、こだわりすぎてスカスカでカサカサな人が、たまにいる。まるで、甘美なものや官能性が罪悪であるかのように、そうした快の要素が排除されている。それが間違っていることとすら思っているのかなと思われる節もある。あたかも、スカスカでカサカサなのが「自然」であるかのように。でも、ほんとうの快は化学物質や科学技術によっては享受されないし、天然素材だけがもたらしてくれる快が存在する。それを知ることなく、それに見て見ぬふりをして、スカスカのものを自然本来のものと「思い込んで快に浸る」のは、むしろそんな手続きのほうが間違っている。自然の豊かさの、ひとつの種類を、ないものとする。罪悪であるかのように排除する。それこそ、自然を冒涜しているのではないだろうか。それに、そもそも花は生殖器なのだ。

以上是六千二十七字也


サンタマリアノヴェッラ:日本公式サイト
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参照記事;
サンタ・マリア・ノヴェッラのアルメニアペーパー
サンタマリアノヴェッラのリキュール メディーチェオ
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